せらむん!
□2008年クリスマス駄文
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「…どうだった?」
「私のほうはだめだったわ。」
「私もです。」
いい年したおとなが三人、テーブルの下にかくれんぼするようにして声をひそめ、何やら相談する姿はどことなく滑稽で。
しかし当の本人達は真剣な表情で。
「参ったなぁ。ほたる、一体何が欲しいんだ?」
心底困ったようにはるかが後ろ頭を掻くと、みちるとせつなも小さくため息をついた。
「ねぇ!パパ達何してるの?」
「えっ!?あっ…いでっ!!」
ひょっこり顔を覗かせた愛娘に、驚きテーブルの下から這い出る際、はるかは頭をぶつけて涙目に。
「はるか…大丈夫?」
「う〜……だ、大丈夫。…痛いけど。」
みちるの手厚い介抱が始まって「またか」と、せつなはほたるを連れてリビングを出た。
二人が出ていくとどちらからともなくため息混じりに言葉が出てる。
「…どうしよう。」
去年のクリスマス。はるかもみちるも仕事が入ってしまい、家族で過ごす事が出来なかった。
今年のクリスマスこそは、と思っていたのだが、はるかもみちるもやはり仕事が入ってしまったのだ。
今年こそは家族で過ごせるものだと思っていたほたるは、はるか達を気遣っていたものの落ち込んでいるのは明白で。
だからこそ、プレゼントだけは…と思ったのだが、中々ほたるが口を割らない。
勿論はるかもみちるもせつなも、それぞれプレゼントは用意しているのだが、やはりクリスマスといえばサンタクロースからのプレゼント。
去年はちゃんと教えてくれたのだが。
『ほたる、今年はサンタさんに何お願いするんだい?もう決めてるのかな?』
『うん!でも、はるかパパには教えないよ!』
『な、何で?』
『だってサンタさんへのお願いは誰にも教えちゃいけないんだよ!』
『ええっ?』
『サンタさん以外にバレちゃうと、サンタさん来なくなっちゃうもん。』
『ええーっ!?』
『…アニメの影響ですかね。』
何でも幼児向けのアニメでクリスマスにあわせたそんな内容の話があったみたいで。
ほたるが大好きなアニメなだけに、すっかり信じ込んでしまったみたいですね。とはせつな談。
そんな訳あってサンタクロースからのプレゼントだけが用意出来ないまま、24日を迎えてしまった。
24日早朝。玄関にて。
「もし欲しいものが判明したら即、連絡な。」
「私の方も。多分はるかよりは早く終わると思うし。」
「わかりました。何かわかればすぐに連絡入れますね。」
各々の表情はさながら決戦前のよう。
実際それぞれの心境はそれに近いものであろうけれども。
†
「あ、天王さん。おはようございます。」
都内某所。
CM撮影の打ち合わせに時間通り現れたはるか。
「おはよう。で、どこで打ち合わせやるの?」
スポンサーの依頼じゃなきゃ断っていただろう仕事だけに、とっとと終わらせて帰りたいオーラを発するはるかにスタッフは身を縮める。
「あの…それなんですが…。」
「?」
「実はですね…――」
「随分と終わるのが早いんじゃなくって?」
時計を確認すればまだ午前中。耳に当てた携帯から聞こえてくるのは嬉しそうなはるかの声。
『それがさ、監督がインフルエンザになっちゃったみたいで、また後日って事になったんだ。』
だったら先に教えてくれよな!って感じだよ!…と、毒づいてみるも明らかに台詞と声色が反してるものだから、みちるは思わずクスリと笑ってしまう。
『…まぁ、そういう訳だから。で、みちるは何時位になりそう?』
「私は…「はるかパパ!早く帰ってきてねっ!」
『えっ!?ほたる!?…ちょ、みちる!?』
「…私もはるかと同じようなものよ。さぁ、うちのお姫様がお待ちかねよ?早く帰って来てね。」
満面の笑みを浮かべるほたるの頭を撫でて、みちるは携帯を切った。
「良かった。今年はみんなでクリスマスパーティが出来そうですね。」
「ええ。」
突然のキャンセルに、みちるもせつなも顔を綻ばせるのであった。
†
『メリークリスマス!』
掛け声と共にクラッカーのパァンという弾ける音と、シャンパンの開く音がポンッと楽しげにパーティーの始まりを告げた。
ほたるとはるかが飾り付けしたツリーや部屋が目を楽しませ、みちるとせつなが腕を振るったご馳走に舌鼓を打った。
「そういえば、」
ご馳走もあらかた片付いて雑談に盛り上がる中、はるかがほたるに思い出したように問いかけた。
「結局サンタさんには何お願いしたんだい?」
今からでも。ほたるの欲しいものがわかれば、今からでも用意するつもりだった。
「やっぱりサンタさんが来なくなっちゃうから、だめかしら?」
みちるもはるかと同じ気持ちで、ほたるに優しく問いかけた。
しかし、ほたるの返答は以外なものだった。
「もうサンタさん来たから教えてもいいよっ!」
「えっ?」
来たから。
もう、来たから。
確かにほたるはそう言った。
ほたるの視線が窓際に向いてるのに気付き、せつなが動く。カーテンを少しあけて外を見る。
「…ほたるのお願いしたプレゼントって…これですか?」
言うのと同時にカーテンを全開にする。
「あら。」
「…雪、か。」
部屋の照明に照らされて光る白く舞い降りるそれは限り無く美しく、誰ともなく溜め息が漏れた。
「わあっ!凄いね!これってホワイトクリスマスって言うんだっけ?明日までに積もるかな?!」
ほたるは窓際まで駆け寄って外の景色とみんなの顔を交互に見て、興奮混じりに声をあげた。
ぴょんぴょん跳ねながらはしゃぐ愛娘は可愛い限りなのだが。
「ほたる。お願いしたプレゼントって雪の事だったのですね。」
「ううん。ほたるの頼んだプレゼント、雪じゃないよー?」
にこっといたずらっ子の笑みを浮かべたかと思うと、はるかとみちるの所までほたるはせつなの手を引いて行く。
そして両腕を目一杯に広げて三人に抱き着く。
「ほたるはね、クリスマスにはるかパパとみちるママとせつなママで過したいってお願いしたんだ!」
三人は驚いたようにして顔を見合わせて、やがて微笑みあう。
「よーし!サンタさんも来てくれたんだし、今日はとことん遊ぶぞほたるっ!」
「やったー!」
†
窓の外。暖かそうな部屋で家族と幸せそうに笑う少女を見て、恰幅のいいその人は優しく微笑んで一言呟いた。
『メリークリスマス』