せらむん!

□はるみち
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「はるかは明日、どうするの?」

照明をベッドサイドのルームランプに切り替えて、みちるはダブルベッドの定位置…僕の隣に潜り込んだ。

「明日は急なオフだしなぁ。特に何も考えてなかったし、家でゆっくりしとこうかな。」

そう。そのほうが良いわね。はるか、遠征から帰ってきたばかりだもの。…なんて、僕を見上げる様な視線の君が可愛くて。

「ちぇっ。みちるも明日オフだったら、家族全員でのんびりできたのにな。」

熱を帯びた頬が薄暗さにバレないよう、拗ねた様にわざとらしく言ってみる。
そんな僕に、君はクスリと笑った。

「次のコンサートが終われば、暫くオフが取れるわ。もう少し、我慢してくださるかしら?」

身を寄せてきた君をフワリ抱き締めて。

「僕と二人っきりでデートしてくれるならね。大人しく待ってるよ。」

ちゅ、と軽く音をたててこめかみにキスを落とす。
擽ったそうにはにかむ君と、はた、と視線がぶつかった。
君は当たり前の様に瞼を閉じて唇へのキスを待つ。
期待に応えるべく、優しく、触れるだけ、のキスを送る。

甘い、幸福の一瞬。

けれど、ゆるゆると瞼を上げる君の瞳の色に気付く。

みちるは、『何か』を『期待』している。

『何か』なんて、わからない程、僕は野暮じゃない。
『期待』されて、嬉しくないなんて、ある訳がない。

でも…。

「…さ、明日は午前中からリハーサルだろ?早く寝ないと、明日に差し支えるよ。」

だから、お休み。って言って、君を抱き締め直して、強制的に寝る体勢へともっていく。
君は何か言いたげにして、やがて、小さく息を吐くと、僕におやすみを告げて。暫くすると小さな寝息をたてて。夢の世界へと旅立った。
顎を擽る柔らかい巻き毛に口付けをして、愛しさと申し訳なさで、胸が締め付けられた。

(みちるを…穢したくないんだ。)

心の中で呟いて、僕はもう一度、腕の中の眠り姫に口付けを落とした。




先の戦いから数ヶ月。僕達はまた4人で生活を始めた。
暫くは慌ただしい生活を送っていたが、最近やっと生活のリズムがとれてきたところだった。
何時でも笑顔が絶えない、そんな家庭。
僕とみちるは幸せだった。
勿論、せつなもほたるも、そう感じてる筈だ。
過信じゃなく、そう思う。
順風満帆、と言ったところか。
ただ、一つを除けば。

今の悩みの種は…そう、みちるとの仲だ。

決して仲は悪くない。寧ろ、最近は穏やかな日々を過ごして、使命に、戦いに明け暮れたあの時よりも、絆が深まったと思う。

じゃあ、何が悩みかって…?

みちるは最近、触れるだけのキスじゃ満足しなくなってる。

その『先』を期待してる。

僕達は寝床を共にしながらも、一度たりとも交じりあった事が無かった。
キスだって軽く触れる程度。
だって、それだけで僕は満足だったから。

その先を、僕は知らない訳じゃない。
それなりの欲望だって持ってる。
みちるの可愛さに、愛しさに、理性のタガが何度吹っ飛びそうになった事か。
それでも、今が幸せと、その感情を押し切った。

みちるは深窓のお嬢様だ。

穢れを知らない、可憐な華…お姫様の様な、真っ白な彼女。
それを僕は、僕の欲望で汚したくなかった。

でも、切っ掛けを作ったのは、僕。

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