せらむん!
□はるみち
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「滅茶苦茶お腹空いたー!…良い匂い!」
「お帰りなさい、はるか。」
帰宅したはるかは、夕食の匂いに鼻をひくつかせて台所に姿を現した。
ただいまのキスを頬に受ける。
「ただいま、みちる。あっ、今日肉じゃが?うまそう!」
盛り付けたお皿に手を伸ばすはるか。
その甲をピシッと叩く。
「お行儀が悪くてよ、はるか。」
イテテと大袈裟に手のひらを振り、悪戯が見つかった子供の様な笑顔を見せて、はるかは自室へと荷物を担いで行った。
はるかが戻る前に支度を済ませる。
今日の夕食は和食で揃えた。主菜は肉じゃが。料理の本を熟読して初挑戦したもの。
茶碗に炊きたての白米をよそい始めた頃、ラフな部屋着に着替えたはるかが戻ってきた。
「今日はみっちりしごかれたから、本当っにお腹ペコペコなんだ。」
「沢山作ったけれど、足りるかしら?」
「足りなかったらみちるを頂くよ。」
いつもの軽口に照れつつも、バレない様に私は軽く溜め息をついて見せる。
「もう、冗談は止してよ。」
「はは。じゃ、いただきます!」
ひょい、ぱく。
そんな効果音が聞こえてきそうな早さで、はるかは本日のメイン、肉じゃがを一口。
途端に真ん丸に見開く目。
「…く、口に合わなかったかしら?」
恐る恐る聞いてみると、はるかは震えだした。
そんなに不味かったのかしら?
私の不安が絶頂に達した時。
「――〜っうまいっ!」
はるかは満面の笑みを浮かべていた。
不安が解けてゆき、私はほっと胸を撫で下ろす。
「良かった、口に合って。」
「本当にうまいよ!ご飯に良く合う!」
育ち盛りの男の子みたいにがつがつ食べるはるかを、普段の私なら「行儀が悪い」とたしなめるのだけれども。一生懸命作った夕食を、こんなに美味しそうに、満面の笑みを浮かべて幸せそうにしている愛しい人に、そんな事を言える筈もなく。
「もう、はるかったら。そんなに焦らなくてもご飯は逃げなくてよ?」
込み上げてくる幸せに、そう言うのが私の精一杯。
暫く自分の箸を持つのも忘れる位に、はるかの食べっぷりを見ていた。
(本当にお腹が空いてたのね…。)
こんな食べ方をするはるか、初めて見る。
私が言い知れぬ感動に耽っていると、ずいっと空になった茶碗が差し出された。
「みひるっ!おはわひっ!」
ほっぺたいっぱいに頬張って、にこにこと満面の笑みを浮かべる姿は、本当に子供みたい。
いいえ、ほっぺたの膨らみ方からすればリスやハムスター。
普段のクールな彼女からは、全く想像出来ない姿。
「いやだ、はるかったら。」
思わず笑ってしまう。
可愛い過ぎて。
なぜか照れてしまって。
「なっ、何で笑うんだよっ!」
笑われたのが心外だったのか、微かに紅潮した頬を今度は空気で膨らまして。
余計に可愛いのに。
だから、また、私は笑ってしまった。
私しか知らないはるかが愛しくて。