小説
□最大にして唯一の理由
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「……はあ、これで何度目? 松永さん」
「!」
「いや君が居ない間、人肌が恋しいと思ってね」
「だからって此処に連れ込まないで。私言ったでしょ、女を連れ込むなら自分の部屋かホテルにしてって」
「いやなに、丁度君の部屋が近かったのだよ」
「はい、その理由三回目」
交わる会話。それは怒声でも悲鳴でもなく淡々としたモノ。隣に居る女が何で、と驚いた表情で此方を見据えている。悪いね、慣れてるのよ。
−実はこういった事は初めてでは無い、何度か繰り返されているのだ。
松永さんは人が夜勤なのをいい事に何度も他の女を抱く。しかも何故か私の部屋で。そりゃ最初は当然キレたけどそれからは呆れ半分諦め半分ですっかり慣れてしまった。
悪そびれた様子もなく飄々としている彼に私は大きく溜息。…こっちは夜勤明けで眠いのに、これじゃ眠れない。
「? 何をしているのかね?」
「着替えと安眠セットを詰めてるの。夜勤明けで眠いのにこれじゃ眠れないから」
つーか、誰が情事後のベットで眠れるかっ。
心中ケッと悪態を付きながら身支度を整える。本当は蹴りの一つでもお見舞いしたいけど生憎そんな元気は無い。
「健康ランド辺りで寝てくるから、後はお二人ごゆっくり。あ、片付けはちゃんとしといてね」
じゃ、と軽く手を振り部屋を後にしようとする、が、それは肩に置かれた彼の手に寄って阻止されてしまった。