青の祓魔師
□この黒い感情
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一方、燐は雪男のいない時間をのんびりと過ごしていた。
つい最近、兄弟から恋人に変わったばかりなのに雪男が口にするのは課題や修行のことばかりであった。
愛の言葉を聞きたいとは言わないが、関係は未だ兄弟の頃と特に変わらないと燐は不貞腐れていた。
今日だってせっかくの休みだっていうのに、雪男は電話一本で出ていってしまった。
そんな雪男に当然燐はおもしろく思っていなかった。
「雪男のやつ…」
燐は自分が戻るまでに仕上げておくようにと言われた課題をする気もなく、だらけていた。
そんなだらけた燐の元に届いたのは一通のメール。
おまけに写真の添付までされていた。
「お!出雲からだ。めずらしー…」
送り主は先日アドレスを交換したばかりであるクラスメイトだった。
燐はためらいもなくメールを開くと、言葉を失った。
なぜなら、その写真に写っていたのは、浮気ともとれる女子達に囲まれた雪男のデレデレした写真だったからである。
『ファミレスの前通ったときたまたま見かけたの』
とだけ内容が書かれていた。出雲は燐と雪男の関係を知っていた。だからこうして写真まで撮って教えてくれているのだ。
燐はすぐに折り返し電話をかけた。どこのファミリーレストランかだけを聞くとありがとな、出雲と一方的に電話を切った。
そのやり取りをしてすぐ燐はファミリーレストランまでやって来た。
外から中を覗くと、奥のテーブルに雪男達を発見した。
雪男の隣には可愛らしい女子達が囲んでおり、写真通りの雪男がいた。
「雪男…」
はじめは乗り込んで、怒鳴ってやろうと燐は思っていた。
しかし、できなかった。
恋人になるきっかけを作ったのは雪男から。そんな雪男が今、楽しそうに笑っていた。
燐は自分以外の前で楽しそうにする雪男を見て、身動きがとれなくなったのだ。
嫉妬する反面、邪魔してはいけないと燐の中で新たな感情が芽生えた。
雪男には雪男の世界があって、時間があると。
祓魔師になったのも燐のため。
雪男の人生を狂わせたのは自分なのだと。これ以上、雪男から自由を奪ってはいけないと、燐は乗り込むのを諦めた。
帰ろうとしたら、志摩と目があった。
志摩は手招きをしておりそれに気づいた雪男は立ち上がった。
雪男がくると気付いた燐は慌てて逃げようとしたが雪男はすぐに店の外に来た。
「兄さん!!」
「雪男…」
「どうしたの?こんなところで。課題は?まさかサボったの?」
雪男からの一方的な質問に燐は先ほどの怒りがぶり返してきた。
「課題だぁ?俺に課題だけ押し付けといて自分は女子と遊んでんじゃねーか!!」
「それは誤解だ、兄さん」
「誤解もくそもあるか!!鼻の下伸ばしやがって」
「だからそれは志摩君が…」
「人のせいかよ、カッコ悪ッ」
燐の台詞に雪男も怒りに火がついた。
「話を聞けよ!!」
雪男の怒鳴り声に燐は静かになった。そして、雪男に手を引かれ店を後にした。
後ろで志摩のが呼んでいたにも関わらず。
雪男は手頃なドアに寮へと繋がる鍵を使って戻った。
「いい加減離せよッ」
未だ掴まれていた手を燐は振り外すと雪男を睨んだ。燐の怒りはまだ収まっていなかった。
「何に怒ってるの?」
対して雪男は冷静さを取り戻していた。
「お前が女子とデレデレと…いや、それはいいんだ。お前が何をしようが。お前の自由だし」
雪男の冷静さにあてられたのか、燐も冷静になっていく。
「兄さんは僕が女の子と遊んでても平気なの?」
「平気とか平気じゃないとかじゃなく、この期に及んでお前の自由を奪ってやりたいって思う自分に腹が立つんだ……って何笑ってんだよ」
雪男はくすくすと小さく笑っていた。
「ごめん。だって兄さんが可愛くて」
「かわ…っ何言ってんだ!?」
途端に燐の顔は真っ赤になった。
「それって僕を一人占めしたいって思ってくれてるんでしょ?」
「なっ…ち違う」
「違うの?」
「俺はただ…」
「嫉妬したんでしょ?」
雪男は徐々に燐との距離を詰めていく。燐もそれに気づき後ろへ逃げていった。
「どんな風に嫉妬したの?」
「う…」
「ねぇ、言ってよ兄さん」
「あぁもう!!そうだよ、嫉妬したよ!!お前が俺を置いて女と遊んだりするからッ」
燐は追い詰められ、背中には壁がぶつかった。
「俺だって色々考えたんだぞ!!本当は女がいいんじゃないかとか俺と付き合うことでお前の自由を奪うとか…」
雪男は俯く燐の顔を左手で上げさせると、触れるだけのキスをした。
「ゆ、きお…」
「男だとか女だとか、つまらないこと考えなくていいから。兄さんは僕だけを見てて」
燐は再び顔を赤くして、バカ野郎と呟いた。
「ま、無い頭で考えてもしかたないでしょ?」
「一言多いんだよ!!お前はっ」
end
おまけ→