青の祓魔師

□君へ聞かせたい
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「兄さん、今日暇だよね?」

突然の申し出にも、兄さんには断る理由を持ち合わせていなかった。

「暇だけど、なんかあんのか?」

「ちょっと付き合ってよ」


疑問を抱えた兄さんを街へと引っ張り連れてきた。

今日はライブの日だった。ちょうど一ヶ月前、CDを聞いた兄さんがいい曲だと言ったバンドの。

チケットが運良く二枚手に入り、日頃の鬱憤を晴らすためにも兄さんを招待したいと思った。

「どこ行くんだよー」

「もう着くから。ほらあそこ」

一度も来たことがないため、下調べしていた。招待しているのに場所がわかりませんなんて言えないから。

「ライブ開場…ってこれ、志摩に借りたCDの…ッ」

「うん。兄さん気に入ってたみたいだったから」

兄さんは目をキラキラにさせ、ポスターを眺めていた。

連れてきた甲斐があった。

「ありがとな!!雪男!!」

「喜んでくれてよかったよ」

中に入ると既に薄暗かったが、指定の席を探すのに時間はかからなかった。

「ごめんね、あんまりいい席じゃなくて」

「いいって。来れただけでも満足だし」

兄さんは終始可愛らしい笑顔をしていた。
ライブ自体が初めてであり、ましてや気に入っている曲を生音声で聞けることが嬉しいのだろう。

「もうすぐ始まるみたいだね」

開場中のファンが一斉に立ち上がる。それに合わせて僕たちも立ち上がった。




アルバムには入っていない曲もあったけれど、やっぱり歌声から曲調、全てにおいて聞き惚れてしまう。

「雪男、いいな。この曲」

「そうだね」

中盤くらいから、兄さんはそわそわしだして、やたらと僕に話しかけてきた。

服の袖を引っ張りながら、歌詞の意味って何?とかあの客の拍手がみんなと逆とか。警備員も大変だよなとか。

「兄さん、集中力切れた?」

「ち、違う」

聞こえないだろうから耳元で話しかけると兄さんは動揺していた。
たぶん顔を真っ赤にしているに違いない。

「やっぱりいいね、この曲」

バラードになり、聞き入っていた僕を遮るのはやはり兄さんであった。

「雪男、トイレ」

「え、今?」

兄さんが好きだといった曲なのに、当の本人はトイレだと言って聞いていなかった。

それについてこいとばかりに袖を離してくれなかった。

生憎、出やすい場所だったため、扉を開けてトイレへ向かった。

「よかったの?あの曲、兄さんがいい曲だって言ってなかったっけ?」

「んーそうだったか?」

手を洗う兄さんを横目に話し掛けた。

「せっかく兄さんに生で聞かせたいって思って連れてきたのに。兄さんってば全然集中してないんだから」

「………から…」

「え?」

「お前があのボーカルばっかみて、こっち見ねーからッ」

「それって…」

やきもち?と言うと兄さんは顔を真っ赤にさせていた。
そもそもライブとはそういうものなのに。

「だ、だいたいあのCDだって…お前に近づく口実だったし…って!!何がおかしい!!」

慌てて弁解をしようとしているが、逆に墓穴を掘っている兄さんをみていたらおかしかった。

「兄さん、それ逆効果」

「なッ」

「僕のことが大好きでたまらないって言ってるようなもんだよ」

「か勘違いだ!!バーカ」


あまりにも兄さんが可愛くて、ライブに戻ってもきっと集中できないだろうな。

「帰ろうか?」

「え、いいの?ライブは」

「それよりも兄さんを早く愛したくなっちゃった」

「…っ…」

僕は兄さんの手を優しく取ると、鍵を手にした。











end

ライブに行ったとき思い浮かんだネタ

雪男は結局、燐に甘いってこと!!(どーん)


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