青の祓魔師
□逆転兄弟
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【旅立ち】
「自慢の兄ちゃんなんだ!!」
それは幼い頃の燐の口癖であった。雪男の後ろをくっついて回る姿はまるで親鳥を追う雛鳥のようだった。
中学生に上がったときにはその光景も見なくなり、雪男は背中に寂しさを感じていた。
その頃から弟は毎日のように身体中に痣を作って帰ってきていた。
燐は喧嘩っぱやくても、決して自分から喧嘩を吹っ掛けるようなことはしないと雪男も知っていた。だから一度強く問い詰めたことがあった。すると燐は言いにくそうに「だって兄ちゃんを馬鹿にするんだ」と答えた。
その理由を知ってからは、怪我して帰ってくる燐を優しく抱きしめ、ごめんねとしか言えなくなっていた。
そんな優しい弟から守られるのは今日が最後。
雪男は明日から修道院を離れ、学園の寮に入ることになったのだ。
まだ残った荷物を片付けていた雪男はアルバムを閉じると、傍らで手伝う燐を見た。
「昔はあんなに可愛かったのに」
「は?」
燐は振り返ると、雪男の手に持たれていたアルバムに目を移す。
「兄ちゃん兄ちゃんって僕の後ばっかり着いてきてさ」
「今もそうだったら気持ち悪いだろ…そんなことより手を動かせ」
燐は照れを誤魔化すように雪男に作業を促した。
「ねぇ、燐」
「ん?」
「本当に祓魔師になる気ない?」
「……あのなぁ」
燐はダンボールの入り口をガムテープで止めると部屋の隅へ寄せた。そして雪男に呆れたように呟いた。
「俺はなるつもりはない。できれば兄ちゃんにもなってほしくない」
雪男は学園に入学すると同時に祓魔師になるための塾に通うことになっていた。
養父の死後、弟を守っていくのは自分だと決意したため。
「僕は祓魔師になると神父さんに誓ったんだ。今さら引き返せないよ」
「やめちまえ、やめちまえ。今からでも十分間に合う」
燐はベーっと舌を出した。そんな燐に雪男は苦笑いをした。
「燐も一緒だったら心強かったのに」
「よくゆーぜ。兄ちゃんは何でも一人でこなすくせに」
「あーあ、燐の手料理が食べられなくなるのか、残念だな」
「たまには遊びに行ってやるからさ」
全部の荷物をまとめ終えると広く感じる部屋を見渡した。
「燐と過ごすのも今日で最後だね」
「なんか嬉しそうだな」
「全然。寂しいよ。やっぱり行くの止めようかな」
雪男は柄にもなく弱気で、祓魔師になる不安と燐を残していく寂しさがそうさせていた。
「兄ちゃんらしくねーな」
燐は眩しいくらいに笑うと、自分の胸をどんと叩いた。
「帰りたくなったら、いつでも帰ってこいよ。俺はいつだって兄ちゃんの味方だからな」
「そんなこと言われたら、行かなきゃダメじゃない…」
雪男は吹っ切れたように燐を見ると、ありがとうと呟いた。
「いってきます」
「おう!!いってらっしゃい」
雪男は燐の笑顔を眼に焼き付けたのだった。
end
続く…のか?