青の祓魔師
□君へ聞かせたい
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兄さんがCDを持って部屋の中をうろうろしていた。
正確にいうと、僕のスペースの方を。
あえて聞かないつもりだったが、うろうろしながら時折僕を見ていた。
兄さんが何を訴えようとしているかなんて手に取るようにわかってしまう。
志摩くんにCD借りたはいいが、それを聞く手段がなく僕のパソコンを頼ろうとしているのだろう。
生憎、僕は暇ではない。ましてや他の男から借りてきたCDを僕のパソコンで聞こうとしていることが気に入らない。
「ゆ、雪男」
「何?」
「CD聞きたいんだけどさ、パソコン借りてもいいか?」
今まさに、僕はエンターキーを強めに弾いたところだった。
兄さんには僕がパソコンを使っていると見えないのだろうか。
「僕が何してるかわかってる?」
「プリント作り」
「わかってるならなんでそーゆーこと言うかな…」
呆れ気味に呟けば、見事、兄さんは背を向けた。そしてよく見える尻尾はしゅんと床にだらしなく落ちた。
そんな姿が可愛くて、結局は仕方ないと甘やかしてしまう。
「いいよ。そのかわりイヤフォンは付けてね」
兄さんは明るい笑顔を見せると、自分の椅子を僕のところまで近づけてくる。そしてCDをセットし、イヤフォンを耳に付けて流れてくる音楽に目を閉じた。
僕のイヤフォンなんだけどね。
「そういえば課題は終わったの?」
「…………」
このくらいの距離ならイヤフォンをしていても聞こえるはずなのに、この兄ときたら無視を決め込んでいる。
だから右耳に入っていたイヤフォンを引っ張って外し、わざと大きな声で課題と短く言った。
「うわッびっくりしたじゃねーか!!」
「兄さんが無視するからだろ。で?終わったの?」
「う゛……あっ!!こ、この曲いいなー」
それで誤魔化したつもりなのか、兄さんは僕から目を逸らすとCDの裏表紙を見て、曲名を探していた。
イヤフォンから零れていた音楽に耳を傾けると、確かにいい曲であった。
あのあと、課題を無理矢理やらせたためか、兄さんは疲れて眠ってしまった。
僕も残りの仕事を一段落終え、集中力が切れたのでさきほどのCDに目を移した。
初めて見るバンド名だった。元々、積極的に音楽は聴く方ではないけれど。
「ふーん、近々ライブするんだ…」
気になってネットで調べたら、わりと有名なバンドだったらしい。
ベッドで眠る兄さんを見て、携帯を握りしめた。