青の祓魔師
□羨ましかったんだ
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小さい頃は兄が自慢で誇りに思った。
それは、僕が兄を悪魔だと知る前までの話。
養父である藤本獅郎に聞かされたときは、幼い自分が受け止めるには大きかった。
それでも受け止めたのはやっぱり、兄が自慢で誇りだったし、そんな兄を守りたいと思ったからだ。この手で守れると。
それからの日々は毎日が地獄のようであった。
元々勉強は嫌いではなかったため知識は身に付いても身体がついていかなかった。
兄のように生傷は絶えなかった。それでも兄には悟られないよう隠し、弱虫な弟でいなければならなかった。
本音を言える相手もおらず、苦痛でしかなかった。
何も知らない兄に怒りをぶつけたことだってあった。理不尽な八つ当たりも兄は動じるとこはなかった。
いつしか兄を守ることよりも早く神父さんに認めてもらいたい気持ちの方が強くなっていた。
兄さんに負けたくないと思うようになっていた。
だって、神父さんを占める割り合いはいつだって兄が大きかったからだ。
神父さんが兄を大事にしていたことは知っていた。
悪魔だと知っていながらも愛情を注いでいた。
そんな兄がたまらなく羨ましかった。
僕がどんなに辛い訓練をしていても、偉いぞ燐とか燐よくやったなと神父さんから出る言葉は兄のことばかりであった。
できて当たり前。それが神父さんの中の僕であった。
「雪男はずりぃよな」
「何を突然…」
後ろの方で兄の声がした。首だけで振り替えると僕のSQを広げていた。
「あ、聞こえてた?」
「うん。で?何がずるいの?」
「お前はガキの頃から知ってたんだろ?俺が悪魔だって」
「うん。だからこうして祓魔師になったんだからね」
無意識に身体ごと兄に向けていた。SQを床に置く動作を眺めていた。
「俺の知らないジジイを雪男はたくさん知ってるんだよな」
「…………」
「俺よりたくさんジジイを見てきたもんな」
「兄さん…」
「今思い出せば、よく二人でこそこそしてたもんな」
「気付いてたの?」
「んー…でもまぁ俺が聞いたところで答えてくれなかっただろ」
「ごめん」
まさか兄に気付かれていたとは知らなかった。極力、神父さんとは行動を一緒にしないようにしていたのだけれど。
疎外感を感じさせる発言に申し訳なくなり、またごめんと謝ってしまった。
「祓魔師としてのジジイはどうだった?」
「かっこよかったよ」
「そっか」
神父さんが兄を守って亡くなったときも、こんなやり取りをしたと思い出された。
兄も思い出したのか、黙ったままであった。
さすが双子だ。
「兄さんのことを教団の武器にしようとして隠してたわけじゃないよ」
「何だよ、急に」
「誤解してたら天国の神父さんも報われないかと思って」
「心配すんな、ちゃんと分かってるって」
神父さんは兄を愛していた。我が子のように。悪魔じゃなかったとしても愛情の大きさは変わらないだろう。
「僕は兄さんが羨ましかったよ」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
兄に悟られないよう、笑ってみせると気に入らなかったのか頬をつねってきた。
力加減を知らない兄の指は痛かったが、優しく笑う兄を見たら何も言えなかった。
end
→おまけ