青の祓魔師
□羨ましかったんだ
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俺は悪魔で、魔神の落胤。それを知ったのは数ヶ月前。数ヶ月前の俺は、自分が人間であると疑いもせずに生きてきた。
口煩いが欠点のない弟と本当の父親のように接してくれる養父。
実は二人が祓魔師であり、自分の天敵であることを知ったのも数ヶ月前の話。
悪魔である事を隠されていなかったらと、ここ数日前から考えていた。
小さい頃から悪魔だ鬼だと罵られていたのだ。今更、本当は悪魔でしたと告げられても別段驚きはしなかっただろう。いや、実際は驚くと思うが、あの最悪な結末を迎えることは無かったはずだ。
俺を守って、ジジイは死んだ。
俺は喧嘩の毎日で、ジジイには人様に謝らせることばかりしていた。
そんな俺を決して咎めようとはせずに、いつも口を大きく開けて笑っていた。
今思えば、パラディンとしての余裕ってやつか?
祓魔師としてのジジイを俺は知らない。
どんな風に人を救ってきたのか、どんな風に悪魔を祓ってきたのか。
それを知っている雪男が羨ましかった。
雪男はジジイの本当の子どものようで、絶対の信頼関係だと思った。自分にだけが壁があるようで。
自分だけが知らされないまま生かされて、陰で守られていたことにも気づかずに。
「雪男はずりぃよな」
「何を突然…」
二人きりの寮内で、雪男のSQを片手に呟いた。
独り言が雪男にまで届いていた。
「あ、聞こえてた?」
「うん。で?何がずるいの?」
「お前はガキの頃から知ってたんだろ?俺が悪魔だって」
「うん。だからこうして祓魔師になったんだからね」
いつの間にか雪男は身体ごとこっちに向けていた。
俺もSQを床に置くと雪男をじっと見つめた。
「俺の知らないジジイを雪男はたくさん知ってるんだよな」
「…………」
「俺よりたくさんジジイを見てきたもんな」
「兄さん…」
「今思い出せば、よく二人でこそこそしてたもんな」
「気付いてたの?」
「んー…でもまぁ俺が聞いたところで答えてくれなかっただろ」
「ごめん」
別に謝ってほしくて言ってるわけじゃない。雪男に言うとまたごめんと謝ってきた。
「祓魔師としてのジジイはどうだった?」
「かっこよかったよ」
「そっか」
前にもこんなやり取りをしたなと思い雪男を見ると雪男もたぶん同じ事を思っているようだ。
さすが双子だな。
「兄さんのことを教団の武器にしようとして隠してたわけじゃないよ」
「何だよ、急に」
「誤解してたら天国の神父さんも報われないかと思って」
「心配すんな、ちゃんと分かってるって」
もし俺と雪男の立場が逆だったら、俺だってそうしていたはずだ。
勘のいい弟に悟られないよう俺が歴代最年少の祓魔師になって弟を守っていただろう。
「僕は兄さんが羨ましかったよ」
「ん?」
「ううん、なんでもない」
雪男は得意の作り笑顔を向けてきて、俺に通用するとでも思ってるのかと頬っぺたをつねってやった。
それを無抵抗で受け入れる雪男の崩れた顔はどこかジジイに似ていた。
end