小説

□無敵 06.9.9
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「コンラッド、早く早くっ!」
「はいはい」

 はしゃぐ有利に、コンラートもいつもに増して笑顔になっている。
 その後をのんびりとついていくのは村田とヨザックだ。

「おーおー嬉しそうに」
「そりゃあ、ここんとこ坊ちゃんはずう〜っと書類仕事ばっかさせられてましたもんね」
「それでも彼がやる仕事は本来ならもっとあるはずなんだよ」

 まったく、と困ったように眼鏡を押し上げようとした村田の指がスカッと空振りした。いつもの場所にいつもの物が無いのを失念していたらしい彼が、それを横を歩く男に気取られないようにとさりげなく更に指を動かして鼻の頭を掻いている。だが一部始終をしっかり目撃してしまったヨザックは、とぼけた顔を装っている村田に笑いを抑えられない。けれども笑っていたら青く偽装した瞳にジロッと見上げられたので、慌てて誤魔化そうと口を開いた。

「オツトメご苦労さんでやんした」

 ヨザックは村田が魔王の仕事をこっそり手伝っているのを知っている。しかし結構本気で言った台詞に返った返事は
「ちっが〜う! 使い方はそうじゃないよ。それにこの台詞を言う時にはポーズを忘れずにって教えただろ」
というものだ。ダメ出しを食らってしまったヨザックは「アレ?」と指を一本立てると顎にあて、教えてもらった時の事を思い出そうとした。ちなみに本人は可愛い仕草をしているつもりだが、全然そうは見えてない。

「えーっと、こうでしたっけ?」
「いーやこうだ」

 相手が知らないのをいいことにとんでもない嘘を教えている、「大」のつくハズの無駄に賢い少年と幼馴染みを振り返ったコンラートが、そんな二人を見て堪えもせずに笑った。
 彼は彼であえて間違いを指摘したりしないので、というよりも時々は一緒になってわざと間違いを皆に教えてくれたりするので、今日も村田は思う存分ヨザックで楽しんでいる。

「こうだ、こう」
「はあ、こうなんですね……あっ」

 今時真剣に「だっちゅーの」を練習していたヨザックが、前方を見て軽く声を上げた。その視線を追ってコンラートも口を開く。

「ユー…坊ちゃん、前を見ないと転びますよ?」
「なんだよ、あんた人を子供扱いすん……わっ!?」
「うわっ!!」
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