小説

□想われ人 05.11.2
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 眼鏡の少年の爆弾発言に、辺りは先程よりも騒然となった。

「こっ、婚約者ぁ!?」
「お前そんなのいんのっ!?」
「しかも男って!!」
「ちっ、違う違うッ!! あれはあっちが勝手に言ってるだけでおれは認めてませんッ!!」
「あんなに可愛い子に想われてるくせに贅沢だなー」
「だーかーらー! いくら可愛くてもあいつは男だからっ! おれは女の子が好きなんだ〜っ!!」
「学校の真ん中でそんなに女好きを言い触らさなくても」
「だ、れ、が、言わせたんだ、誰がっ!?」

 胸倉を掴み有利が睨みつけるのにも、その少年は意に関せずといった顔で微笑む。

「女の子よりお姉様が好きなくせにぃ〜」
「そっ、それがどうかしたか? 悪いか? ああそうだよおれは年上好きだけどもさっ、全部片想いだけどさっ、じゃなくてっ! おれのプライベートな個人情報公開すんの止めてくんないっ?」
「自分で言ってるくせに」
「だから言わせてるのはお前だろーがっ! そもそも、ナゼにお前がここにいんだよ?」
「もうすぐ試験だから勉強教えて〜って泣き付いてきたの誰だっけ」
「そっそれはおれです……で、でもなぜに学校に? うちにくる約束だっただろうが」
「いいじゃんたまには。何だよ、せっかく迎えにきてあげたのに」
「いやお前うちまで歩くのが面倒でチャリの後ろに乗せてもらう魂胆なだけだろ?」
「あれっ、なぁに? 無料奉仕で家庭教師やってあげるこの僕に文句?」
「ううー、文句はありません、けどさ」
「じゃあさっさと帰ろうよ。きみの成績じゃ試験範囲おさらいするだけで今夜一晩中かかるだろうから」
「えっ、一晩ってそんなに……待て、泊まってく気かよ!」
「うん、ちゃんと替えのパンツと服持ってきたよ」
「またそれも置いていく気か。これ以上うちにお前の私物増やすの止めてくんない? ただでさえ狭いおれの部屋にさ。服やパジャマなら貸してやるっつってんじゃん」
「やだよ、渋谷のセンスにはついてけないもん」
「……あいかわらずしっつれいだな、お前さんは」
「いいから、ほら乗って」
「これおれの自転車なんですけどね」

 突然現れては矢継ぎ早な会話をして、持ち主の意見をも無視して荷台に跨がろうとした村田に、「ちょっと待ったーっ!」と赤坂が割って入った。

「うっわ、聞きました奥さん? ちょっと待ったコールですって。いよいよねるとんめいてきましたよ!」
「えっ? 奥さんって俺のこと?」
 急に話を振られて中野が慌てる。
「奥さんって……あのな、人の友人巻き込むの止めてくんない? 初対面だろこいつとは。親友のおれでさえお前のノリにはついてけないんだから、初対面のこいつが対応できるわけが」

 有利が疲れた声でチャリ友を村田から匿ったところへ「渋谷君っ!!」と赤坂が迫ってきた。
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