小説

□謎の人4 05.10.30
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 暗い顔でコップを握り締める勝利に、村田がプッと口元を押さえた。
「た、たしかにそうだろうけどっ」
 肩を震わしている少年に勝利が恨みがましい目を向けると、笑いながらもちゃんと説明してくれる。
「でも安心して、今日は二人とも帰って来ないから」
「えっ、そうなのか?」
「うん。父さんは来週まで香港だし、母さんは急な出張だってさっき電話あったから。だから大丈夫だよ」
 親がいるならいくらなんでも服くらい着せとくよ、と優しく微笑みながら頭を撫でてくる村田の手に安心感を感じてほっと息をつくと、頬にキスされた。
「……なんか子供扱いされてないか? 俺の方が年上なんだけど」
 複雑な顔の勝利がそう言えば、更に頭を撫でられる。
「まあまあいいじゃない、細かいことは」
「……お前って本当に不思議な奴だよな」
「そーお? 勝利さんは判りやすいよね」
「なっ、俺のどこが」
「全部だよ。クールぶってるけど実は渋谷とそっくり。喜怒哀楽ハッキリしてるし、意地っ張りかと思えばいやに素直だったりして…可愛い」
 またチュと今度は額にキスされる。
「おっ、男がカワイイなんて言われて嬉しいとでもっ」
「ちゃんと普段は格好良いよ。でもさっきは可愛い過ぎて参った。つい歯止めが利かなくて…ごめんね?」

 にこーっと天使の様な笑顔を向けられて、うっと勝利は口篭ってしまった。最初からこいつの笑顔にやられているのだ、この笑顔には逆らえない。
 しかし気絶する前のことを思い出し、この笑顔には裏があるということももう解っていた。
 小さい頃の有利の笑顔に似て天真爛漫で無垢な笑顔に見えるが、この村田健は天使の振りをした悪魔だ。確実に確信犯だ、こうすればさっきのことを自分が怒れないのが解ってしている。自分がこの笑顔にまいってしまっていることにとっくに気付いているのだ。本当にタチが悪い。

「卑怯者」
「なんか言った?」
 にこにこしている村田に、別に、とそっぽを向いた後、ふと勝利は彼に向き直し自分も笑ってやる。
「好きだよ」
 途端に村田の顔が赤くなった。
「お前だって可愛いぞ、その余裕があるんだかないんだかチグハグなとことかがな」
「〜〜もうっ!」
 頬を膨らました村田を引き寄せると、あっさり腕の中におさまってくる。そのまま顔を近付け勝利から唇を寄せた。
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