十二国記小説

□東風(ひがしかぜ) 07.3.26完結
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 その言葉を聞いた陽子は、目をパチクリとさせてから笑いだした。
「お世辞はいいよ鳴賢」
「いやお世辞じゃなくてだな」
「自分のことは自分が一番良く判ってる。私が美人だなんてとんでもない!」
「はあ?お前何を言って…」
 呆れたような声の鳴賢にふうーと溜息をつくと、どこからどう見ても美少女――いや今は美少年に見えるが――は理由を話しだした。
「こっちの格好の方が楽なんだ」
「楽って…普通はさ、女ってのは綺麗な着物や簪とかが好きなんじゃないのか?」
 だが陽子は肩を竦めて首を振る。
「そんなことないってば。…そりゃあまあ、私だって一応は女だし、綺麗な物は嫌いじゃないよ。だけど、それと自分がそれを身につけるのとは話は別だ!」
 言う彼女の眉間には深い皺が刻まれる。そんな陽子の顔を見るのは鳴賢には初めてで、彼は唖然とした。
「……そんなに嫌なもんかぁ?」
「鳴賢は襦裙を着た事が無いからそんなことが言えるんだ!あんなピーラピラした服何枚も重ね着して、それだけでも鬱陶しいってのに、頭には簪やら櫛やら歩揺やら花鈿やら!山ほど挿されて重くて首も肩も凝るわ、耳墜をつけようと有無を言わさず穴開けられそうになるわ。おまけに、そんな格好をしたら当然のように化粧までさせられるんだぞ!?鳴賢化粧したことある?ないだろう?あれ息苦しいったらないんだよ!!」

 勢いに圧倒されて少し後退さる鳴賢に、しかし尚も陽子は続ける。
「ただでさえ動きにくいってのに、簪とか落とすんじゃないかって気が気でないしさ。そもそもこっちは服を着過ぎなんだ、あっちじゃ冬でもこんなに重ね着しないんだ!」
 ハア――ととてつもない盛大な溜息をついた陽子に、まあ落ち着け、と鳴賢が肩を叩いた。
「分かった、分かったから。――だけどそんなに嫌がるお前に女物着せようとするヤツがいるんだ?」
「ああ、いいって言ってるのに聞かなくてさー。毎日毎日、朝っぱらからお説教だ」
 言って陽子は指を鳴賢に突きつける。
「陽子、あなたは女の子なのよっ?いつもいつも男物ばっかり着て!あたしは男友達を持った覚えはないの!……だってさ」
 大袈裟に首を振る陽子にくすくすと鳴賢は笑い出す。それにむっとしながら彼女はまた溜息を落とした。
「……大体さ、あんなに着ていたら、いざという時に戦えないじゃないか。そうだろう?」
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