小説

□きみに歌を2 05.12.20
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 猊下はあの楽器がお気に召したらしく、御自分の部屋にずっと置きっぱなしで、気が向いた時とかにたまに弾いている。
 彼の部屋から流れてくるその異国の歌は、今では城の者にとっての楽しみのひとつとなっていた。聞こえてくるたびに皆が手を止めて聞き惚れた。
 奏でられる曲は毎回違っていて、たいていは歌もついてくる。歌詞は解らないけれど、その言葉は様々だということはヨザックには解った。

 言葉の響きが曲ごとに違う。猊下が過ごされた世界は国ごとに言葉が違うらしく、彼はたくさんの言語を操ることができるらしい。
 だが言葉は違っても、彼の歌う曲はどれも物悲しい。

 ゆったりとした旋律を聴きながらヨザックは村田の部屋の窓の下でそんなことを考えていた。

「あれ、ヨザック?」

 かけられた声に振り向くと、魔王陛下が護衛と一緒に立っていた。
「どうしたんですか、あなたがこんな時間にこんな場所にいるなんて」
「それがさー、ヴォルフラムに蹴り出されてねー。まったくあの寝相の悪さはなんとかなんないのかな。いやそもそも、おれの部屋で寝起きすんの止めてくれればいいんだけど」
「それで夜中に散歩ですか?」
「うん。そしたらコンラッドに見つかっちゃってさー」
「いつも言ってるでしょう? いくら城の中とはいえ、一人で歩いたりしないでくださいと」
「と、こうだ。まったく過保護だと思わないか?」
 肩を竦めて息を吐く少年王に、「隊長の言う通りです」とヨザックが幼馴染みのほうに同意してみれば、思った通りに眉を寄せられる。それに彼が「まったく坊ちゃんは護衛泣かせなんだから〜」と笑ってみせたところで曲が変わった。

「……あいつまた弾いているんだな」
「……ええ」
「ユーリはこの曲を知ってますか?」
「まさか。だってこれ明らかに日本の曲じゃないじゃん。……どこらへんだろうな、エキゾチックな感じだからインドとか、東南アジア系?」
「いんど?」
「あー、えっとな、って説明すんの難しいや」
「ユーリの国からは海を隔てた大陸だ。かなり遠い」
「へー」
 ヨザックが村田の部屋を見上げて小さく瞬いた。
「色んな土地で生活してたんだな、村田の魂は」
「……四千年ですからね」
 有利もコンラートも同じ様に窓を見上げた。

 また曲が変わる。
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