小説
□波の調べ 05.11.13
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勢いよくガバリと起き上がって、そしてオレはそれが夢だったことに気付いた。
「夢か…」
無意識に額を拭ってから、自分が寝汗をかいていたのに気付き、苦笑が漏れる。
「はっ」
口に出して笑ってみても、気分は晴れるどころか益々悪くなる一方だ。
解っている。さっき見たものは夢ではあるが夢ではない。
あいつがいなくなったのは事実。これは現実なのだ。
陛下を、「魔王」を護って死んだのだ。あいつも本望のはずだ。
オレたちは魔王の臣下で、「兵士」だ。大事なものを護って命を落とすことなど当たり前。
それくらい最初から覚悟している。
この国の者なら誰だって十六の時から、いやもっと幼い時から国の為に命を差し出すことを決めているだろう。眞魔国に忠誠を誓ったのだから。
特にあいつの場合は、あの陛下を凄く大事に、王だからという理由以外にも掛け替えのない特別な相手として護っていたのだから、彼が怪我ひとつ負わないで無事だったと知って喜んでいるはずだ。
昔と違って穏やかな目をしたあいつは、陛下の傍に居ることがとても幸福そうだったから。
スザナジュリアの死後、あんなに荒んだ目をしていたあいつが元に、いや前以上に爽やかな笑みを浮かべることができるようになったのは、多分あの陛下のおかげなのだろう。
「名付け親」とか言って陛下はあいつを大層慕ってた。対するあいつもまるで自分の息子か孫でも相手にするかのように、目を細めて陛下の面倒をみていて。
異世界で生まれた陛下の名付け親とは、いったい何がどうなってそんなことになったのかは知らないが、数年あいつが消えていたのと関係あるんだろう。
とにかく、今のあいつには「シブヤユーリ陛下」以上に大事なものは無かった。それは疑い様のない真実だった。
「………だった、か…」
小さく呟いて、息苦しさを感じ船室を出た。
ここは「赤い海星」ドゥーガルドの高速船の中だ。
少しばかり臭いのも、激しく揺れるのも、いつものオレにとってはたいして気にならないはずだった。慣れてる、といったらおかしいかもしれないが、もっと酷い環境に追いやられたことはいくらでもあるからだ。
だがそれが今は無性に苛つく。