小説

□想われ人 05.11.2
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 それは高校に入ってできたチャリ友と一緒に校門を出ようとしたまさにその時に、辺りに響き渡った。

「渋谷君っ、俺と付き合ってくれませんか!?」
「……へ…?」

 言われた方は晴天の霹靂といった顔で、ぽかんと自転車を押した恰好のまま立ち尽くしている。

「……どこに?」
「いや渋谷、違うからっ!」

 トンチンカンな答えにチャリ友が思わず突っ込んだ。
「こいつが言ってるのはそういう意味じゃ」
 鈍い奴だとは分かっていたが、まさかこんな答えを返すとは。まあ無理もないけど。
 そう心で呟いてチャリ友の中野は相手を見た。
 高校の校門で男が男に告白されれば頭が理解を拒むのは当然といえる。

「そう、この人の言う通り、そういう意味ではなくって、俺が言いたいのは、その、きっ君がっ」

 そこまで一息に息継ぎも無しに言うと彼は大きく深呼吸をして、有利を見つめて、告げた。

「君が好きなんだ、渋谷有利君!」

 キッパリと男らしい告白に辺りがどよめいた。
 照れた様に頬を染めて、でもにっこりと最大限な笑顔を浮かべた彼は端から見てもとても恰好良い男で。
 言われた方も、アイドル顔負けの可愛らしい顔立ちをしているものだから、二人並ぶと絵になるなどという言葉では表せない程お似合いではある。
 有利が学ランを着ていなければ、の話だが。

「あ、俺は赤坂っていいます」

 礼儀正しく自己紹介を始める相手に、有利は呆けた様に大きな瞳をまん丸に見開いて驚いていたが、次の男の行動にハッとした顔で瞬いた。

「最初は友達からでいいです、俺と付き合ってくださいっ!」
「ごめんなさい」

 一昔前の深夜合コン番組みたいに頭を下げて手を差し出してくる相手に、有利も番組の通りに頭を下げた。

「うわー、久々に見たな〜ねるとん」

 声をかけることもできずに見守るしかできない周りの反応をアッサリと振り切って明るい声が響いた。

「む、ムラケンっ!?」
「赤坂君か〜。付き合ったとして、結婚とかしちゃったら、その場合赤坂有利? 不利はどこになるのかな? やっぱ六本木? 赤坂有利六本木不利ってなんかデュエット曲のタイトルとかになりそうじゃない? いやお水の花道かな? でもその場合どっちかっていうと六本木のが有利なような」
「ばっ、バカか? おれは断っただろうが! そもそも男同士は結婚できませんッ!!」
「きみの婚約者は男じゃないか」
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