小説

□毛色の違い 05.11.5
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 うららかな午後、有利は村田に何気なく訊ねた。

「こっちの人の髪の色ってさ、色々だよな」
「まあ地球人からしたら有り得ない色もあるね」
「ヨザックのオレンジも珍しいけどさ、紫とか緑とかって凄いよなー」
「どうしたのさ渋谷、今さらそんなこと言い出しちゃって」
「いや前から思ってたんだよ。こっちの人は色鮮やかだなあって」
「人じゃないのも一杯いるけどね」
「あー、いやそれは置いといて。それでさ、えっと…」
「それで? それで何さ?」
「その、なんだ、髪の毛がそういう色の人ってさ」
「なんだよ、歯切れ悪いなぁ」
「そのさっ、紫とか緑色なのって……やっぱり、しっ、下のも?」
「下?」
「そのっ……あそこの…」

 俯いて小声になった親友に村田が呆れたように眼鏡を押し上げた。

「しーぶーやー、きみ何考えてんの?」
「だ、だって気になるじゃん!」
「そーおー? ていうかさ、前からって、きみ他に考えること無いわけ?」
「だってさ、だって、あそこの毛はともかくだよ? スネ毛も紫とか緑とかなんだろうかとか考えだしたら夜も眠れないっていうかー」
「うわーっ、ちょっと止めてくれないか、そんな妄想に僕まで巻き込むのは!」
「そんなつれないこと言うなよ、おれたち親友だろ?」
「こんな時だけそんな……あっ、さては渋谷、最初から巻き込む気満々だっただろ?」
「な、ちょっと想像してみ? 青白い足から紫やら緑のスネ毛が生えてるトコ」
「やーめーてー! そんな想像したくないからっ!」
「…………仕事しないのなら出て行け」

 凍る様な声音で、それまでずっと黙ってペンを走らせていたグウェンダルが有利と村田に命令した。
 それはとても魔王と大賢者様に対する臣下の態度ではないが、こんな話を聞かされたら誰でもこんな風になるのも無理はない。

「まあまあグウェン、そう目くじら立てなくても。陛下、猊下、ちょっと休憩してお茶でも飲みませんか?」

 普通の兵士なら畏まって冷や汗を流すだろうフォンヴォルテール卿の態度に、平然と、しかも爽やかにコンラートが助け舟を出す。そして有利はそれにすぐさま乗った。
「あっ、賛成ー! おれ喉渇いちゃった」
「休憩する程はかどったのか?」
 深い青の瞳が更に険しさを増して見つめてくるのを、必死に目を逸らして有利はソファに腰を降ろした。
「ちょっとだけ、ちょっとだけ休憩、ね?」
 途端に肺の空気全てを吐き出すような溜息が聞こえてきたが、それから庇う様にコンラートが有利とグウェンダルの間に入ってカップを渡してくれる。
「さ〜んきゅ」
 えへ、と名付け親に笑いかけると苦笑が返ってきた。
「しかしあなたがそんなことを考えてたとは」
「まったく渋谷は変なこと思いつくよね」
 村田もお茶の入ったカップを受け取りながら苦笑している。
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