小説

□謎の人  05.10.27
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 部屋の扉を叩く音に、「なんだよ入れ」と、パソコンから目も離さずに勝利は返事をした。

「おじゃましまーす」

 てっきり弟だと思ったのに、入ってきたのはその弟と中二中三と同じクラスの、今は弟が主催の草野球チームのマネージャーをやっているという、三つ編みではない眼鏡っ子の村田健だった。
「何だお前、勝手に入ってくんな」
 言って睨み付けたが、村田は平然と笑った。
「だってお兄さんが入れって言ったんじゃないか」
「誰がお兄さんだ、お前みたいな弟を持った覚えはない」
「はいはい友達のお兄さん。そんなことよりちょっと頼みがあるんだけど」
「そんなこととはなんだ! 大体何でお前こんな時間にうちにいるんだよ、もう夜の十一時だぞ」
「あれ、聞いてないの? 今日僕渋谷の部屋に泊めてもらってるんだけど」
「ナニぃ!? ゆーちゃ…有利の部屋に泊まるだとぅ?」
「うん。今日カレーだから食べてけばって渋谷に夕飯誘われた僕に、どうせだから泊まっていけばってジェニファーさんが言ってくれたんで、お言葉に甘えてお世話になってます」
 ぺこりと頭を下げた村田に、図々しい奴だなと言いながら勝利は冷たい視線を投げた。だが彼はちっとも気にした風もなく、にっこりと笑い続けている。
「お兄さんはいつもこんなに帰りが遅いの? さっき帰ったみたいだけど」
「いやちょっと飲み会が…ってお前には関係ないだろ」
 眉間に皺を寄せ吐き捨てても村田は笑顔を絶やさない。
「何の用だ。大体何故お前が俺の部屋に来るんだよ、有利はどうした?」
「渋谷はもう寝ちゃったんだよね。今日の草野球の試合、かなり白熱しちゃったから疲れたんじゃないかな。でも僕はまだ眠くないし暇なんだ。それで何か本でも貸して貰えないかな〜って」
「有利に借りればいいだろうが」
「ええー、渋谷は野球の本しか持ってないじゃない。僕どっちかっていうとサッカー派だし」
「……お前は有利のチームのマネージャーじゃなかったか?」
「そうだよ。それが?」
「それがじゃないだろう、それがじゃ! サッカー派なのにどうしてマネージャーなんかやってんだよ? 草野球チームなんか好きじゃなきゃやらないだろう」
「やっだな、そんなの決まっているじゃないか。渋谷がいるからだよ」
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