十二国記小説

□お土産2 07.5.29
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「よっ皆さんお揃いで、元気ぃ?」

 政務もひと段落ついて、親しい者達と午後のお茶を楽しんでいた慶国首脳陣の前に現れたのは隣国の麒麟だ。あいも変わらず供も付けずに窓からふらっと入ってきた金の髪の少年に、だが驚く者はもはやこの国にはいない。
 苦笑を漏らす浩瀚や、思い切り溜息を吐く景麒を横目に、髪の色のように輝く太陽を背中にしょっている六太を、陽子はいらっしゃいと、にこやかに招き入れた。

「丁度お茶してたところなんですよ」
「いらっしゃいませ延台輔、今日のおやつは自信作なんですよ」
「やっりぃ、鈴の手作り菓子は旨いからなあ。あっそうそう土産があるんだぜ」

 すぐに六太の分の茶を用意し始めた鈴に口元を綻ばせると、ふいに何かを企んでいるかのような顔に変わって、彼は窓枠に腰を下ろしたま上半身だけ外に身を乗り出し、何かを引っ張り上げる。
 それはツルツルした大きな袋だった。
 見るからにこの世界の物ではない証拠に蓬莱の某有名百貨店の文字が印刷で入っている。

「それって」

 懐かしそうな顔をした陽子に、六太は袋から取り出した物をほい、と手渡す。
 渡された方は一瞬動きが止まったかと思うと、次の瞬間、普段の彼女からはありえない声を発した。

「かっ、可愛い〜〜っ!!」

 それは彼女の身近に居る者全てが初めて聞く声だった。いつもの凛としたものとは段違いの、甲高い、いわゆる「黄色い悲鳴」とやらで。

「……そんな声出せるんだ陽子…」

 呆然と呟いたのは祥瓊。すぐさま頷いたのは虎嘯と桓タイ、それから鈴。というか全員。
「気に入ったか?」
 楽しげな六太に「うんっ!」と大きな返事をして陽子は潤んだ瞳で見つめた。

「お土産って、これ貰っちゃってもいいの?」
「あったり前じゃん、そのために買ってきたんだぜ」
「ありがとう六太君っ!」
「おわっ!?」

 感極まった様子の陽子が抱き付くと、主上、と景麒がすぐに咎めてくる。だが彼女は六太を抱きしめたまま「だって見てこれ!」と手の中の物を見せた。

 茶色と灰色の間のような色のそれは、どこからどう見ても彼らのよく知っている生き物だ。

「まあ、楽俊にそっくり!」
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