十二国記小説

□お土産 06.1.6
1ページ/7ページ

「昼に行くから禁門に来てくれ」

 たった一言だけ喋って嘴を閉じた鳥に苦笑すると、陽子は堂室に居た二人に声をかけた。

「――そういう訳だから、ちょっと禁門に行って来る」

 ハア……と長い溜息をついた金の髪の青年と、涼しい笑みを浮かべた青年は、同時に「私も参りましょう」と告げた。


 貴人ら一行に慌てて礼を取る兵達に、にこやかに笑いかけながら歩く陽子は、そこに知り合いの姿を見かけて笑みを深くする。

「凱之じゃないか、今日はお前が当番なんだ?」
「主上、台輔まで……どうなさったんです?」
「来るんだ」
「それはそれは。ではお出迎えに?」
「そうなんだよ」

 誰が、とは訊ねない凱之にまた苦笑して、陽子は門を開けるように促した。
 凱之の号令に人の背丈の数倍はある扉が開いて、陽子らがその先にある広い岩場に出るのと同時に、ぽつりと空の彼方に黒い点が見えた。

「いらしたようですね」

 浩瀚の言葉に頷くと、間に合ったなと陽子は息をつく。

「もう、来るなら来るで、もうちょと早く連絡してくれればいいのに」
「そうですね。でもそれがあの方達らしいといえますが」

 笑いを堪えているような桓タイは、ここに来る途中で行き会って付いて来た。

「桓タイ、台輔が睨んでるぞ」

 小声で突付いてくる虎嘯に慌てて桓タイが表情を引き締めたのを見て、今度は凱之が忍び笑いを漏らした。

「凱之〜、笑うなよ」
「すみません桓タイ様」

 杜真は彼を青将軍ではなく字で呼んだ自分の上司に首を傾げた。いやその前から首は傾いているのだが。王が何故彼の名前を知っているのだろうと。というか、何故主上を前にして平気でいられるのだろう、と。
 その疑問は自分だけではないらしく、同僚も同じらしかった。
 そんな兵士達の前で大僕も笑っている。

「こいつ本当に将軍に見えね〜よな〜、普段は」
「そこが桓タイ様のいいところではありませんか。諜報活動もできる将軍なんて中々いませんよ。それに、戦闘時の桓タイ様の凄さは大僕よりも私の方が良く存じておりますから」

 自慢げに言う凱之に、そらそーだ、と返す虎嘯。

「麦州からの付き合いだもんなお前らは。――今度こいつの弱点教えてくれな?」
「虎嘯!」

 ええっそうなんだ? と上司の経歴にビックリしている部下四人を尻目に、「さあ…そんなものありましたか…」などと大僕を相手に平然と応える凱之。

「おっ、凱之偉いぞさすが俺の部下だ!」
「桓タイ」

 静かな声に騒いでいた三人が振り向くと、浩瀚は笑っていた。眼以外は。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ