十二国記小説

□受難2〜鳴賢編〜 05.12.28
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 講義が終わって二人が外に出ると、先に退室していた生徒達がたむろしていた。大学の庭院は結構広く、いつもたくさんの学生で賑わっている。
 そこを通り過ぎようとした二人に聞こえるように、吐き捨てるように呟かれた言葉は「半獣のくせに」。
 ピクリと反応した手に友人が軽く自分のそれを添えて促すと、彼は眉間に皺を寄せながらも従ってくれた。それにホッとしたのもつかの間、言葉は続けて投げつけられる。

「ちょっと褒められたくらいで」
「まあまあ、どーせあいつは卒業できねーよ」
「そーそ、なんたって勉強以外はからっきしだからなぁ」
「見たかお前?あいつのあのへっぴり腰」
「見た見た、あれじゃー少学生にも勝ち目ねーよ」
「いーや庠序の奴でも負けるって」
 ゲラゲラと笑い出した男達に、とうとう彼の足が止まった。
「お前らなあ!」
「め、鳴賢」
 慌てて止めてくる隣の男に半ば呆れつつ、彼は笑う学生等を睨む。

 まったく、こいつときたら自分が笑われているのに俺の心配すんなよ!なにかっていうと半獣だなんだと言い出してからかってくるこいつらに、腹ぐらい立てても言い返してもいいのに。
 だがこの男は全然気にしないのだ。
 それが慣れからきているのか心の広さからきているのかといわれると、多分後者だと思われるが、だからといって自分には我慢ができない。
 そんなことでこの友人を傷つけるのは許せない。半獣とか他国から来たとか、そんなものは本人と何の関係も無い筈だ。

「なんだぁ?伝説の男が何か言ってるぜ〜?」
「二人仲良く伝説を証明してくれるんじゃね〜の〜?」
「この…いいかげんにっ」

 今にも掴みかかろうとした鳴賢を止めたのは、小さなネズミの手ではなかった。
 それは地面から、石畳を敷き詰めた床から、ぬっと現れた奇妙な獣のせいだ。

 最初に現れたのは頭。それからぬるりと全身を地面から出してきた。短い毛に覆われた姿はイタチに似ている。しかしイタチの筈は無い。イタチにしては大きすぎる。
 いや、イタチが地面から現れる筈が無い。

 誰もがポカンと口を開けた中、その獣が同じように口を開いた。

『―――ここに』
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