十二国記小説

□受難 05.12.2
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 信頼出来る仲間ができたから紹介したいと陽子に言われ、大学の休みを利用して慶国は金波宮に遊びに来た楽俊は、陽子の慎みの無さをホトホト肌で感じる事となった。

 招待を知って当たり前のようについて来た(本当は楽俊が連れてきてもらったのだが)延主従と一緒に通された堂室には、七、八人程の男女が集まっており、その真ん中で座っていた人物が楽俊を見ると勢いよく立ち上がって、これまた勢いよく駆け寄ってきた。

「楽俊っ!!」

 満面の笑みで駆け寄った陽子は、やっぱりというか、当たり前というか、ともかく何の躊躇もせずに楽俊に抱きついた。正確にいうと、「飛びついた」が正しいが。
 立ち上がった陽子を見た瞬間、これはくるなと身構えた楽俊だったが、久しぶりに会えた愛しい少女に抱きつかれたら動揺しないわけがない。
「よよよよ、陽子っ! こらっ!」
 髭も尻尾も背中の毛も逆立てて、陽子を引き剥がしにかかる。しかし彼女の手はがっちりと楽俊を抱きしめて離れない。
 慌てた彼は救いを求めて堂室の中の人々を見渡して、今度は違う意味で毛を逆立てた。

 複数の男達が皆、自分と陽子を――否、自分だけを睨んでいたから。

 陽子の半身である景麒を筆頭に、筋肉隆々の大男、中肉中背だが目付きは横の大男より鋭い武人風の男、怜悧な顔の貴人、白い髭の老人、のすべての男が、楽俊を射殺しそうな顔で睨んでいる。
 そして、背後からも身が凍るような視線が二つ、ヒシヒシと突き刺さっていた。延王と延麒の。

「は、放せってば、陽子、こらっ」
 わたわたともがく楽俊にお構いなしの陽子は、しがみついたまま頬擦りを繰り返す。男達の視線にはこれっぽっちも気付いてないらしい。
「いいじゃないか、久しぶりに会った時くらい」
「いつも言ってるだろ、慎みを持てって!」
 その時、黙って成り行きを見ていた内の一人が口を開いた。

「いつも?」

 金髪美青年の恐ろしく整った顔から冷え冷えとした声が発せられて、楽俊は己の失言を心底後悔した。
 見れば能面のようなその顔に青筋が立っているのがハッキリと判った。
「いっいいえ、あのっ」
 紅葉のような小さな手を必死に振って弁解しようとした楽俊を、だが陽子がアッサリと肯定した。
「うん、いっつも叱られてるんだ、慎みが無いって」
 嬉しくて堪らないといった顔で景麒を振り返ると、またも頬擦りを始める。
「でもこの毛皮たまらないんだよー。ふわふわでほわほわで、凄く気持ちいいんだ」
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