★みじかいほん★
□君に送るこの想い
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昼間から昌浩と彰子の楽しそうな声が聞こえてくる。
どうやら今日は昌浩が物忌みらしい。
っとなれば当然、物の怪もこの安倍邸にいるだろう。
そんな事を屋根の上で仰向けになりながら考えていた勾陣の耳に高めの声が届いた。
「勾。」
「騰蛇か。どうしたんだ?」
「今日は昌浩が物忌みで邸にいるからどこかに行かないか?」
(ほう、珍しい事もあるものだ。)
少し驚きはしたが、特に断る理由も無いためその誘いを受けた。
「あぁいいぞ。」
「よし。ならちょっと来い。」
物の怪はヒラリっと屋根から降り、勾陣もその後をついて行った。
向かう先は主である老人の部屋。
(どこかって晴明の部屋の事だったのか?)
まさかな、っと思いながらも物の怪は迷う事無く足を進めていく。
「おい騰蛇。何故ここに来たんだ?」
「ん?ちょっと衣を借りようかと思ってな。」
「何故そんな物がいる?」
「いいから。いいから。」
そう言って微笑みながら部屋へと入っていく。
中に入るとすぐに本性に戻った紅蓮。
小声で晴明となにやら話を始めた。
少しするとにっこりと狸の時の様な笑みを浮かべた晴明が、
「よかろう。頑張るのじゃよ、紅蓮や。」
っと実に楽しそうに言った。
(頑張る?騰蛇は何をする気なんだ?)
いささか不審に思った勾陣だったが、紅蓮があまりにも嬉しそうにこれを着ろ、っと衣を差し出してきたので取り敢えずそれを着る事にした。