宝物
□触れるための口実をください
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整った顔立ちに高い背。
スッと伸びた姿勢は意志の強さを思わせた。
「本当、良くも悪くも目立つ人なんだよね…」
そのくせ、ベビースモーカーでマヨラーで。
「…マヨはともかく、煙草は…格好いいんだよね…」
いつだったか、偶然見掛けた時の土方を思い出す。
煙草を懐から出す。
1本取り出して、口許に持っていきながら火を点ける。
さぁっと風が流れ、土方の髪を揺らす。
煙草の細く白い煙が、頼りなさげに風に乱れた。
(なんか、妙に目に焼き付いちゃって…あれから変に意識しちゃうし、目では追っちゃうしで本当、どうなってるんだ僕は…)
頭の中で自問しながら歩いていると、夕日で染まった川沿いの土手に黒い塊が見えた。
(…もしかして)
新八は少し土手を下りて、その黒の近くに寄る。
(やっぱり…でも珍しい)
黒い塊は土方で、土手にひっくり返って寝息を立てている。
「疲れてるのかな…」
こうしてサボっている土方を見たのは初めてだった。
新八は、寝ている土方の風上に腰を下ろした。
微かに揺れていた土方の髪が動きを止め、それを確認した新八は小さな笑みを浮かべた。
「少しは風避けになるよね」
やる気のない自分の上司とは違い、いつも忙しそうなこの男を、もう暫くだけ休ませてやりたかった。
…だけの筈が
(髪、触ってみたいな…)
自分と同じように黒い、でも少し硬質なイメージの髪に、何故か触れてみたくて仕方なくなってきたのだ。
(いやいやいやいや、それはおかしいよ!なんでそんなん触りたいんだよ!違う事!違う事考えろ!)
沸き上がった興味を打ち消すように頭をブンブンと降り、落ち着くべく深呼吸をした。
それから恐る恐る土方の顔を見る。
(起こしてないよね…)
土方はさっきと全く変化なく眠っている。
新八はホッとしながら、その寝顔を眺める。
「寝てても格好いいなんて、反則って言うか、ズルイって言うか…」
寝顔に見とれているうちに、無意識に土方の頬に指が触れた。
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