宝物
□ひみつ
1ページ/2ページ
「失礼します…」
軽い音を立てて、保健室の引き戸が開き、間を置かずにパタリと閉じる。
「なんだァ?珍しいなァ新八ィ…まだ授業中じゃねぇのか?」
部屋の奥から笑みを含んだ声が聞える。
いつもなら軽く反論して適当に流すところだが、今の新八は無言で、引き戸の辺りから動く気配もない。
「おい、突っ込み眼鏡が突っ込まねぇんじゃ、ますます存在感薄くなンぜ…っと、何んなとこでヘタってんだよ」
養護教員である高杉は、室内用のサンダルをパタつかせながら、入口で潰れた新八の傍らにしゃがみ込み、その顎に手を添え顔を上向かせる。
「急に…具合悪くなって…ここにもやっと…来たのに…眼鏡…」
首筋から顔にかけては異様に熱いのに、顔色は悪く、体も酷くぐったりとしている。
「…しゃあねぇな。ベッドまで運んでやるから暴れんなよ」
ひよいと新八の体をいわゆるお姫様抱っこで抱え上げ、あっと言う間に新八をベッドに乗せた。
「ちょっと待ってろ」
そう言うと、高杉はベッドから離れて、体温計を取りに行った。
(…悔しいなぁ)
高杉の背中を見ながら、新八はさっき抱き抱えられた感覚を思い出す。
実は、新八と高杉は秘密の恋人同士という関係だ。
だから…一見細身な高杉だが、その実結構な筋肉質であると言うのも知っていたりする。
(こういう時に差を感じるのって、キツいなぁ…なんか、更に精神的にクる感じ)
「熱、計ってやるからシャツ開けろ」
新八は朦朧としながらも、ゆるゆると腕を上げて、制服とシャツを緩める。
「…?」
新八の体が揺れる。
ベッドに高杉の体重も加わったからだ。
「…な、に」
体温計を入れる為に開けた筈のボタンは、高杉の手が更に外して、はだけた白い肌には高杉の唇が触れている。
「病人に何してんですか…ッ!」
「分かんねぇのか?」
「このスケベ教員…こんなとこで、サカんな、よ!」
「恋人の目の前でンな色気出してンのが悪りィ」
新八の抗議など聞く耳持たず。
高杉の指は新八の弱い場所を刺激していく。
「…なんだ、文句はもう終いか?」
抵抗がなくなった体に、つまらなそうに高杉が顔を上げると、新八は身動き一つ出来ず、顔色は土気色に変更していた。
「やべェ…」
流石の高杉も、慌てて新八の体温を計る。
「40度…に、ギリギリか」
新八のボタンを襟元以外は直して、薬と水を用意する。
「おい、薬だ…飲めるか?」
「…う」
飲む気はあるが、体を起こすのは難しそうだと言いたげな新八に、高杉はベッドの脇で屈み、口移しで薬を飲ませる。
「ん…」
少し顔をしかめながらも、水と薬を嚥下した新八の様子に高杉は少しホッとした。
「取り敢えず寝とけ…帰りは俺が送ってやらぁ」
高杉の言葉に、新八は微かに頷いた。
その頭をくしゃっと撫でた高杉が、ベッドから離れようとした時…高杉の白衣が何かに引っ張られて、前に進めなくなった。
「…新八」
新八の手が、白衣の端をギュッと握っている。
しかし、その顔は眠っているようにしか見えない。
新八の手が離れないように、そっとパイプ椅子をベッドの側に置き、ギシリと軋ませて腰掛けた。
「可愛い事しやがんなぁ、お前ェは。…起きてる時もこンくれェ素直なら、もっと可愛いがってやるンだがな」
寝返りをうった新八の頬が微かに染まった。
終
お礼→
.