宝物

□ひみつ
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「失礼します…」


軽い音を立てて、保健室の引き戸が開き、間を置かずにパタリと閉じる。


「なんだァ?珍しいなァ新八ィ…まだ授業中じゃねぇのか?」


部屋の奥から笑みを含んだ声が聞える。
いつもなら軽く反論して適当に流すところだが、今の新八は無言で、引き戸の辺りから動く気配もない。


「おい、突っ込み眼鏡が突っ込まねぇんじゃ、ますます存在感薄くなンぜ…っと、何んなとこでヘタってんだよ」


養護教員である高杉は、室内用のサンダルをパタつかせながら、入口で潰れた新八の傍らにしゃがみ込み、その顎に手を添え顔を上向かせる。


「急に…具合悪くなって…ここにもやっと…来たのに…眼鏡…」


首筋から顔にかけては異様に熱いのに、顔色は悪く、体も酷くぐったりとしている。


「…しゃあねぇな。ベッドまで運んでやるから暴れんなよ」


ひよいと新八の体をいわゆるお姫様抱っこで抱え上げ、あっと言う間に新八をベッドに乗せた。


「ちょっと待ってろ」


そう言うと、高杉はベッドから離れて、体温計を取りに行った。


(…悔しいなぁ)


高杉の背中を見ながら、新八はさっき抱き抱えられた感覚を思い出す。


実は、新八と高杉は秘密の恋人同士という関係だ。
だから…一見細身な高杉だが、その実結構な筋肉質であると言うのも知っていたりする。


(こういう時に差を感じるのって、キツいなぁ…なんか、更に精神的にクる感じ)


「熱、計ってやるからシャツ開けろ」


新八は朦朧としながらも、ゆるゆると腕を上げて、制服とシャツを緩める。


「…?」


新八の体が揺れる。


ベッドに高杉の体重も加わったからだ。


「…な、に」


体温計を入れる為に開けた筈のボタンは、高杉の手が更に外して、はだけた白い肌には高杉の唇が触れている。


「病人に何してんですか…ッ!」

「分かんねぇのか?」

「このスケベ教員…こんなとこで、サカんな、よ!」

「恋人の目の前でンな色気出してンのが悪りィ」


新八の抗議など聞く耳持たず。


高杉の指は新八の弱い場所を刺激していく。


「…なんだ、文句はもう終いか?」


抵抗がなくなった体に、つまらなそうに高杉が顔を上げると、新八は身動き一つ出来ず、顔色は土気色に変更していた。


「やべェ…」


流石の高杉も、慌てて新八の体温を計る。


「40度…に、ギリギリか」


新八のボタンを襟元以外は直して、薬と水を用意する。


「おい、薬だ…飲めるか?」

「…う」


飲む気はあるが、体を起こすのは難しそうだと言いたげな新八に、高杉はベッドの脇で屈み、口移しで薬を飲ませる。


「ん…」


少し顔をしかめながらも、水と薬を嚥下した新八の様子に高杉は少しホッとした。


「取り敢えず寝とけ…帰りは俺が送ってやらぁ」


高杉の言葉に、新八は微かに頷いた。
その頭をくしゃっと撫でた高杉が、ベッドから離れようとした時…高杉の白衣が何かに引っ張られて、前に進めなくなった。


「…新八」


新八の手が、白衣の端をギュッと握っている。


しかし、その顔は眠っているようにしか見えない。


新八の手が離れないように、そっとパイプ椅子をベッドの側に置き、ギシリと軋ませて腰掛けた。


「可愛い事しやがんなぁ、お前ェは。…起きてる時もこンくれェ素直なら、もっと可愛いがってやるンだがな」












寝返りをうった新八の頬が微かに染まった。










お礼→



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