清ちゃん強化月間〜2年目の秋〜

□ひとりよがり
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 振り向いた瞬間、しまった と思った。












 薄暗い資料室へ注す光。
ガチャリと扉が開けば、目で追ってしまうのは、振り返ってしまうのは、人の性〈サガ〉というものでしょ?
まさに反射運動。

繕った笑顔と、こんにちはの言葉。

それもまた反射運動。







だから、







振り向いた瞬間、しまった と思ったんだ。








 パタンと閉まるドア。
途端、閉ざされる光。

 気まずさに息が詰まりそう。
助けを求めるかのように目をやった窓から見える太陽は、ビルの向こうへ還ろうとしている。

すっかり秋だね、と
開きかけたその口をつぐむ。


 扉を開いたのは式部の苦手とする人物、第三部隊隊長 上條璃宮。
歯に衣着せぬ物言い、と言えばまだ聞こえは良いが。


 せっかく、まるで天使のような美しい容姿なのに勿体無い、と思う。



しかし同時に、彼の言葉遣い、その態度に好感を抱かないのもまた確かで、



「…こんにちは。」




 暗がりの中、そっと紡がれた言葉。
返ってきたそれに、驚いて彼の顔を見つめれば、蒼と碧にぶつかった。
僕はよほど驚いた顔をしていたのだろう、ふわりと細められる二色の虹彩。




「日が墜ちるのも、随分早くなりましたね。」




 消えゆく太陽を愛おしげに、切なげに見つめる彼の横顔は、穏やかで美しくて、




まるで、
一枚の絵のよう。







 息が詰まった。
それは、気まずさのせいではなくて。

 その光景は、今まで観たどんな絵画より美しかったから。





「…副隊長?」



 形の良い眉をひそませ、訝しげに。
はっと我に返る。
表情、それはいつもの彼なのだけれど、



「なんでもないよ。
そうだね、秋って感じになってきた。」













 すっかり日の墜ちた資料室は暗くて。
上條くんの表情は読み取れなかったけれど、笑太くんの言った通り、悪い人じゃないかもしれない なんて思った。









 だから、
今度会ったら、ちゃんと言いたい。

こんにちは。お疲れさま、

そう、反射運動の言葉じゃなくて、引きつった笑顔でもない。















 でもね、嗚呼。
ほんの少しでも微笑んでくれたらば



そんなことを思うのは
所詮僕のひとりがり





 少し火照った頬に感じる秋風。
苦手なモノが一つ減った、そんな初秋の日のこと。






2009 9/21 u-


ハッピーバースデー清寿!
これからも素敵な副隊長でいてください(´`*)







 

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