清ちゃん強化月間〜2年目の秋〜

□want!
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「上條隊長!」



 第三部隊執務室へ駆け込む新人君
…いや、藤堂くん。
珍しく息を切らせ、…走ってきたのかな?わかんないけど。
ただならぬ雰囲気が醸し出されている。



「藤堂?どうした?」



 対応する瑞城。
欠伸する元親。お茶を飲む僕。





 藤堂という非日常が訪れたけれど、ここまではいつも通り。
さして変わらない内勤の日。








バァン!


「上條!」



 また非日常が訪れた。
ドアの安否が若干不安になる音が響き渡る。息を切らせてはいないものの走ってきたと見える再び訪れた非日常は総隊長。



「なんですか、一体。騒々しい―…」
「頼む!!」



 それでも本当に第一ですか、とでも言ってやろうと思っていたのに、総隊長に肩をがっしりと掴まれ叶わず。

―にしても相変わらずデカい。
頭一個分違うんじゃないかと思わせるほど。ちらっと、涙目な藤堂に目をやる。


……二十歳ってまだ背伸びるのかな、





 じゃなくて!!



「何ですか?状況説明してくださいよ」

「あ、ああ…すまない。」

「実は…」






回想☆――…

 無線機に、御子柴隊長のその日3回目となる欠伸が入ったある日
「待て!!」

「なんでしょう?」

「…欠伸、3回目も入ったか?」

「はい。」

「いや、そんな筈は―…」
「うるさいな。そんなのいいから次いってよ藤堂。」

「はい。」





そんなある日のこと。



「式部隊長、」

「なあに?どうしたの羽沙希くん」

「あの、もうすぐ……その、お誕生日ですよね?」



 見開かれるアメジスト。
ふわっと優しい笑顔。
いつも自分に向けられるそれ。自分には真似できない心遣い。



「そうだね…。もうそろそろそんな時期、かな?」

「なにか、欲しいものはありませんか?」



 先程よりも少し大きく開かれる瞳。
再び向けられる笑顔。
なにか、なにか一つでも返すことができたなら。






――…



「で、何だったの?副隊長の欲しいものって。」

「はい、メモしてあります。」

「…準備いいんだな。」



 振り向けば瑞城と元親。
テーブルには5つのカップ。3色のマグと2つの白いティーカップだ。
どうやら2人とも気になったらしい。


ごそごそとメモ帳を取り出す藤堂。



「これです。」






式部隊長へのプレゼント候補

・お星さま
・りっくん
・新しい総隊長

















『……。』



 一同の視線は先程からだんまりを決め込んでいた御子柴へと。




「怒らせたようだな…」

「突っ込みどころが多過ぎて困るが、
これは、相当……」

「式部隊長は、変わらず優しい笑顔でした」

「いや、その方が怖いだろ」



 カップを両手で包み込み、がっくりとうなだれる特刑執行部隊トップに君臨する男は、大きな体を震わせていた。



「……だから、だからだなぁ!」

「開き直りましたね。」
「だな。」

「上條!お前だ!!」



 じとりとした3つの視線には気づかない振り、の笑太。
騒がしい4人の影で、羽沙希の几帳面な文字で記されたメモの切れ端をクシャリと握る人物“りっくん”。




「やだ!絶対いやだから!!」

「まだ何も言ってねぇだろ!」

「どうせあんたのことだから、代わりに僕をプレゼント☆とか思ってんでしょ!?」

「…わかっているなら話が早い。」

「ちょっと!その手はなに?
やだやだ!はーなーしーてーー!!!」



 脱兎のごとく駆け出す上條。
それを捕らえる羽沙希に笑太。第三の腹心はというと、傍観者という立場を決め込んでいる。




「羽沙希くーん?笑太くん?」




  副隊長の登場である。




 アメジストの目に留まったのは、彼の“欲するもの”。それと戯れる兎。

そして、それらに纏わりつく笑太くん。










「―-…。」









 法務省にこだまする叫び声、







「羽沙希くん、」

「は、い。」



 にこり と、美しく妖艶な微笑。
それは無邪気で無垢。かつては第四東都帝国を代表する芸術家であった に魅入られたのも頷ける。
そんな完璧な笑顔から、隠しきれない黒のオーラ。






「プレゼント、ありがとね!」




…法務省にはその日二度目の叫び声が響き渡った―…







want!








「りっくん、お星さま見に行こうか!」

「……しょうがないから、今日だけは言うこと聞いてあげる。」




 空を仰げばお星さま、りっくんは隣。
そっと繋いだ手に、抵抗はなくて。
新しい笑太くん役は手に入らなかったけど、ほんとはそんなのいらなくて、






心の中で、羽沙希くんにありがとうを呟いた。










2009 9/14 u-

 

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