清ちゃん強化月間〜2年目の秋〜

□limited express
1ページ/1ページ



僕の中の色の無い世界。
貴方に逢うまではそれが当たり前で、それが全てだった。





「えっと… あんたが式部清寿?」

「はい。今日から第一部隊に所属になりました」

「俺は諜報課の柏原謙信。宜しくね」

「こちらこそ宜しくお願いします」




初めて会話を交わした時も


「その先はおたくらの仕事でしょ?」



なんて、計算高く笑った顔も…



僕にとっては、かけがえのない思い出だ。






「なに惚けてんの?」


今日は任務が早く終わったから、僕は諜報課に居座っていた。



「ううん何でもない」

「そっ?ならいいんだけど…」



諜報課の中は忙しそうで、たまにこうして声を掛けてくれるだけで心が弾む。



「僕の事はいいから…ほら、呼んでるよ」

「わかった」




僕の肩をポンと叩き、呼ばれた方へ向かう彼。
目で追うと後ろ手にブイサインを送る。
彼の小さな背中が、頼もしく見える瞬間。



顔を机に伏せて独りで味わう幸福とは隣り合わせの不幸せ。



もっと側に居て、僕を安心させてよ…



彼の背中を見送りながらボンヤリとした視界。



行き場のない僕の想いは停まることなく走り続ける特急列車。


綺麗な景色も目に入らない。たったひとつの停車駅だけを目指す。








「清寿起きな。帰るよ」



不意に呼ばれて顔を上げると、僕を覗き込む茶色い瞳。



「ぼく…寝てたの?」

「そっ。俺が忙しくしてた間ずっとね…」



彼の少しツンケンした物言いと尖らせた唇が、ボンヤリしていた僕の意識をはっきりさせた。





「ごめんね班長」

「今は謙信でいいよ」




そう言われて辺りを見ると、窓の外はとっぷりと日が暮れていて さっきまであんなにざわついていた室内も静まり返っていた。



「みんなは?」

「誰かさんがおやすみ中に、とっくに帰った」

「もっと早くに起こしてくれれば良かったのに…」




時計を見れば、かれこれ2時間は寝ていた計算になる。その間ずっと、彼は何をしていたんだろう…


「気持ち良さそうだったから起こす気になるまで時間掛かっただけ!」



脳裏に浮かんだ疑問は、その一言で瞬時に消えた。



「寝顔に見とれてたの?」

「バカ言うな!」




だってほら…

貴方の顔は誰が見ても分かるくらいに色付いていく。


「キスくらいしてよかったのに」

「アホかっ!!」





やっぱり、どんなに時間がかかっても各駅停車をしていこう




窓の外に映る景色や、流れ行く時間の波を2人で眺めた方が幸せを感じられる。




この先、どんなに辛くてもあなたが居ればそれだけで…




特別な毎日が訪れる。









end



 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ