企画

□10000打 企画第一位
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ねぇ阿伏兎。



いつからかそれが口癖になった。
呼べば返事をしてくれるし、あれしてこれしてとお願いすれば、大抵叶えてくれる。
だから、今日もいつもと同じように呼んでみたんだ。

「今日はなんだ。団長」

机に向かったまま、阿伏兎はこっちを見ない。
戦闘民族のくせに、デスクワークまできっちりこなすなんて珍しい夜兎。
それも俺がお願いしたことだけど。
だから視線を寄越さないことに文句を言ったりしない。
意識がこちらに向けられていることは、感じているから。

「しよ?」

何を、とは言わない。
それだけで阿伏兎には伝わる。
溜め息の後に続く言葉は否。

「えー。阿伏兎のケチー」
「ケチで結構。俺はそんなに若くないんでね」
「鳳仙の旦那でも現役だったのに。枯れんの早すぎ」
「そんなにやりたきゃ他の奴とやってこい。部下は俺以外にもいるだろ」
「何で俺が阿伏兎以外の奴とやらなきゃいけないのさ」

宇宙海賊春雨。
兵揃いと世間で評されているようだけど、俺が認めているのなんて阿伏兎くらいのもんだ。
弱い奴に興味はない。
弱い奴に抱かれるなんて、触れられるなんて。
想像するだけで相手の心臓を貫いてやりたくなる。
第一部下の顔なんて覚えてない。
想像だってへのへのもへじだ。

「部下が嫌なら元老共でもいいだろ。機嫌とってりゃちょっとくらいおいたしても許してくれんじゃないか」

冗談。
部下よりもっと最悪の相手だ。
あんな奴らに媚を売れだなんて、いくら阿伏兎でも許せないよ?

拒絶するような背中にぴとり張り付いてやる。
腕を前に回して、隙間なく抱きつく。

言葉で拒絶するくせに、触れればそれを受け入れる。

どうして?

不可解だと阿伏兎に訊ねれば、やりたいだけなら他を当たれだなんて。

「俺は阿伏兎がいいんだ」

他の奴なんか必要ない。
本能が求めるのは阿伏兎だけ。
強い夜兎を愛でる、お前がいい。

浮かんだ一つの答えに、表情から笑みが消えていく。

強い夜兎。

阿伏兎の興味を惹けない俺は、強くないってこと?
俺以外にそんな奴を見つけた?
それは誰?
そいつを殺れば、阿伏兎はまた俺を愛でる?

「ふふふ」
「団長?」

なぁんだ。
そんな簡単なことだったのか。

回した腕をするり外して、踵を返した。
背中に届く阿伏兎の声に振り向くこともせず、その部屋も艦も飛び出した。

どこの誰だか知らないけど。
返してもらうよ。
俺の阿伏兎を。







「これで暫く静かになるな。仕事がはかどる」

神威の残した殺伐とした空気に身を置いて、阿伏兎はにぃっと口角を上げた。




*******

一万打企画の第一位、あぶかむです。
お待たせいたしました!

壊れてるんじゃないですよー。
病んでるんでもないですよー。
神威はただ強さと阿伏兎を求めているだけ。
いもしない相手に勝手に嫉妬しているだけです。
気付いてないけど(笑)

あぶかむに投票してくださった皆様、ありがとうございました!
 

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