企画

□4000打 キリリク
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今日の晩ご飯は下で食べた。
炊飯器を左腕で抱き、右手にしゃもじを持って。
普段なら絶対できない食べ方で炊飯器に三杯。酔っ払いのおじさんからおでんを奢ってもらって、甘くない卵焼きと焼き魚も食べて。
いつも以上の量を食べてお腹は満腹のはずなのに。

「物足りないアル」

呟きが聞こえたのか、銀ちゃんは専用の椅子に座ってぼーっとテレビを見ながら酢コンブでも食ってろと箱を投げつけてきた。
神聖な食べ物を投げるなんてダメガネの躾がなってない。
それでも大好きな酢コンブの箱を開けて口にする。
美味しいはずのそれが、今はなんだかもっさりしてる。

「銀ちゃん。新八今頃何してるアルか」
「あー?えるおーぶいいー、あいらぶお通とか言ってんじゃねーの」

棒読みで言う横顔が、気に入らないと少し歪む。
というか歪みっぱなしだ。
晩ご飯の時もお猪口に注がれた日本酒をちびちびと面白くなさそうに飲んでいた。
糖分と同等とはいかないまでも、お酒も好きな銀ちゃんがそんな風に飲むなんて、寂しいと体現しているようなもの。
だけどその気持ちはわかる。
私だって面白くはない。
量の少ない晩ご飯の後のお茶。
安い茶葉なのに何故か美味しく感じる新八のお茶を飲んでいないのだ。
物足りないものに行き着いてソファにごろり寝転がった。

「寝るんなら歯ぁ磨いてちゃんと寝ろ」

いつもならそれは新八が言う台詞だ。
銀ちゃんの中にというより、万事屋に新八が浸透していることに笑みが零れる。
この場にいなくても存在するなんて、ダメガネのくせに生意気だ。
だけど、新八がいないから私も銀ちゃんもいつもと同じ時間を過ごせていない。
ご飯も美味しく食べられない。

眺めていたテレビも面白くなくて、銀ちゃんもおざなりにしか相手にしてくれない。
それならもう寝てしまえ。
朝になれば新八がそれを伝えに襖を開けて声をかけてくれるから。
またいつもの一日を過ごせる。
思いを馳せて一度目を閉じ、勢いをつけてソファから立ち上がって洗面台へと向かった。
歯磨きは面倒だと思いながらも洗面所の扉に手をかけると同時に、開く玄関の扉。

「何で鍵かかってないの。無用心だなぁ。あ、神楽ちゃん」

ぶつぶつと文句を言ったかと思えば私の名を微笑みながら呼ぶ。
そこに立っていたのは、いるはずのない新八。
私夢を見ているんだろうか。
新八のお茶を飲みたいと思って、いないことが面白くなくて。
思いすぎて夢を見ているのかもしれないと目を瞬かせたけれど、戦闘服に身を包んだ新八がやっぱりそこにいる。

「今日晩ご飯作らずに先に帰ったから。これ、お詫び」

紙袋をはいと差し出され、もしかしてもう歯磨いちゃったと聞かれて慌てて首を横に振った。
香ばしい匂いにお腹がくぅと反応を示す。
開ければそこに三匹のたい焼き。
出来たてなのか、ほくほくと湯気も見える。

「今お茶淹れるからね」

ああ。新八のお茶が飲める。
これでいつもの時間が過ごせる。戻ってくる。
新八は銀ちゃんにも声をかけて、すぐに台所へと姿を消してしまった。
応接室を覗けば、椅子に凭れてテレビを見ていた銀ちゃんの表情が緩んでいた。
お手軽だ。
私も銀ちゃんも。

「あ、神楽ちゃん。一つは定春にあげてね」

台所からの声にわかったアルと返したものの、一匹を定春にあげれば残るは二匹。
私と銀ちゃんの分。
じゃあ新八のは?
聞けばお茶を淹れたら帰るからと。もう遅いからねと。

「神楽。皿持って来い」
「了解ネ!」
「ちょっとお皿なんて使わないで下さいよ!アンタら洗わないでしょ!」

新八の馬鹿。
ダメガネ。
アイドルオタク。

銀ちゃんと思いつく限りの悪口を言えば、盆に二人分の湯飲みと急須を乗せた新八が台所から酷いと言いながら出てきた。
だけどそれはすぐに止んで。

「…なんですか、これ。しっぽばっかり…三つも…」
「お前の分」
「しっぽはアンコたっぷりネ!」
「わう!」

ソファに私と定春が座り、もう一つのソファに銀ちゃんが腰掛ける。
もちろん新八の定位置は銀ちゃんの隣。
それがいつもお茶を飲む位置。
突っ立ったままの新八に早く湯呑み持って来いと銀ちゃんが急かせば、頭もくださいよと照れ隠しの言葉を残して台所へ新八が消える。
きっと今頃嬉しすぎて顔を真っ赤にしてるに違いない。
もしかしたら泣いているかも。

「銀ちゃん」
「なんだよ」
「お茶ちびちび飲まなくてもいいネ」
「お前もこれで満腹になんだろ」

顔を見合わせてにっと笑う。
寂しさなんか吹き飛んだ。

「お待たせしました」
「うっし。それじゃあ」

いただきます!





****************

ヒロ様からいただいた4000打キリリク、「銀新+神楽ちゃんのお話」でした。
3000打のキリリクの前後の話でも可とのことでしたので、お言葉に甘えて続きを書かせていただきました。
ヒロ様、お待たせいたしました!
駄文ですがお納めくださいませ。もちろん返品可でございますー。

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