企画

□3000打 キリリク
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夕暮れには少し早い頃、三つ並んでいた影がぴょこっと飛び出した。
軽やかに影は揺れ、ぴたりと止まる。

「今日は仕事早く終わりましたね」

何事もなくと続けるのは、仕事中鼻歌を絶やさなかった新八。
器用に後ろ向きに歩きながら、私と銀ちゃんの方を向いて笑いかけてくる。
そんなにいいところなんだろうか。
これから行く場所が。
お通のライブが。
ちょっと面白くないと思いながら隣の銀髪を窺えば、同じように苦い顔。
それでも自称大人な銀ちゃんは、髪を掻きながらもう片方の手で早く行けと新八を促す。

「じゃあ今日はここで」

満面の笑みを浮かべ、新八はぺこり頭を下げてお疲れ様でしたと背を向けた。
新八、と。
呼び止めたくなるのをぐっと堪えた。
寂しがっているなんて知られたくない。
それに。
私よりも呼び止めたい人がここにいる。
もっとずっと一緒にいたいと思ってる人が。
見上げれば、銀ちゃんは複雑な表情を浮かべていた。
物悲しいような、慈しむような、愛おしいような。
むず痒い表情。

銀ちゃんの視線を一身に受けている新八は、それに気付くことなく歩き続ける。
鈍感メガネ!
どうして気付かないんだろう。
気持ち悪い視線に。
新八が好きだって垂れ流している視線に。
ちょっと振り返れば、その思いに気付いてしまう表情に。

もどかしい。
私だったらすぐに気付く。
キモイって言って、笑ってやるのに。

もう角を曲がる。
曲がった。

「俺らも帰ぇるぞ」

メシ、ババァんとこで食うかなんて言いながら万事屋への道を辿る。
新八の後ろ姿を目に焼き付けて。

「……銀ちゃん」
「あー?」
「新八に告白しないアルか?」
「な、なんだよ急に。どーして俺がダメガネにこ…告白?しないといけないのか、銀さんわからないですー」

動揺しまくってるよ、銀ちゃん。
あーもー本当に煩わしい。
好きって二文字伝えるだけなのにそれができないなんて。
男らしくバーンと言えばいいのに。

「戸棚に隠したチョコ食べたこと、アルヨ」
「へ?チョコ?ああ、チョコね。チョコチョコ」

言うわけないだろ怒られると、振り向きながら私にも内緒にしろと口の前に人差し指。
前を歩く広い背中は、焦ったせいか少し丸くなっていて。
情けない大人。
だからマダオなんて言われるんだ。
だけど。
銀ちゃんが今を望むなら、新八が気付かないことを望むなら、私も気付かないフリをしよう。
私も今の関係が、万事屋が気に入っているから。

たっと駆け寄り、銀ちゃんの隣に立って歩く。
見上げればようやく傾いてきた太陽が、銀ちゃんの顔を仄かに染めていた。
私を見下ろし、くしゃり髪を撫でてくれる。
家族を見る目が温かくてくすぐったい。
新八も同じような目で見るから、きっと私も二人をこんな目で見ているんだろう。
それを知られているのかどうかはわからないけれど。
何も言わない二人が好きだと強く思う。

そんな私も、いつか誰かを思う日が来るんだろうか。
いつか、銀ちゃんが新八に向けたような表情を、視線を。
私も送られる日が来るんだろうか。
私は新八みたいに鈍感じゃないから、きっとすぐ気付く。
そうしたら振り向いてあげよう。
銀ちゃん二号を作らないために。




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「見てみたいのはノーマルカプですけど、このサイトですからやはり銀新ラブ…得意中の得意である砂糖ぶっかけたくらい甘いの」
がリク内容だったんで、神楽プラスしてみました!どうですか?
あ…甘さは控え目ってことで!

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