宝物

□触れた体温
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例えば、
…俺達夜兎には叶わない事だが――
日向ぼっこしながら居眠りしたり
暖かいねと微笑んだり
太陽の光を全身で受け止めたり
それらとは到底比べ物にならないのに
なかなかどうして、
阿伏兎は俺を離してくれない。


どうしたの、と訪ねると
何でもねぇ、と返ってきた。
離してよ、と言ったら
あったけぇ、と言われた。


「…阿伏兎は一体何がしたいの?」


「もうちょい待って」


そう言っても阿伏兎は
さっきから体勢を変えず
ずっと俺を抱き締めたままでいる。
この格好、結構辛いんだけどな。


「団長って子供体温なのか?」


不意に阿伏兎が訪ねてきた。


「…俺が?」


「今、体温高いだろ
普段もだけど」


「……さっき運動したじゃん」


「それだけ?」


…それは阿伏兎が至近距離に居るから。
なんて口が裂けても言わないけどネ。


「じゃあ子供体温なんじゃないの?
てか阿伏兎、可笑しいよ、頭が」


「…あんたに比べたらマシな方だろ。
急に人肌が恋しくなったんだよ。
若い奴の体温…」


「変態」


「違うっての。つまり…
あんたの体温が恋しくなったって事さ」


目を見張った。
こいつ、正真正銘の馬鹿なんじゃないの。
当の本人は未だに俺を抱き締めたまま。
解放してくれる気配は無し。


「何それ。
え、何、甘えたいとか」


すると
ボソリと呟いただけなのに
阿伏兎の肩がぴくりと反応した。
…へぇ、そうですかそうですか。

阿伏兎は変な所で意地っ張りだ。
俺はいつも話してるから知らなかったけど
他の団員の話によれば口数も少ないらしい。
だから自分のしたい事なんかは
中々口に出さないタイプ。

ふと可愛いね、と言ったら
阿伏兎は、あんたの方が…
と言い掛けて口を閉じてしまった。
可愛いなぁ。
そんな事を思っていると
さっきよりも強い力で
ぎゅっと逞しい腕に絞められた。
あぁ、これはつまり照れ隠しだ。


「…苦しい」


わざとらしく咳き込んで見せると
相手は慌てて俺を解放し体を離した。


「悪い」


「阿伏兎はさぁ
俺の事好き過ぎてるんだよ、多分」


「…悪い」


冗談で言ったのに
阿伏兎はバツの悪そうな顔をして謝った。
甘えたいんだったら素直に言えば良いのに
なかなか素直になれないみたいだ。
仕方ないなぁ…。


「阿伏兎、寒い」


「…暖房かかってんじゃねーか」


「暖めてよ、さっきみたいにぎゅーってさ」


微笑みながら言う。
阿伏兎の顔を見ると
ものの見事に真っ赤。
もしかしたら阿伏兎は
ヘタレの部類に入るのかも知れない…


「俺は別に…」


「嘘は駄目だよー?
大体お前が考えてる事なんか丸分かりだし」


「なっ…」


「おおよそ人肌恋しいなんて
ただの口実でしょ?」


だからぎゅってしてよ、とねだると
仕方ねーな、と腕を引かれて抱き締められる。
変なプライドなんて持ってても損するだけだよ?
でも俺はそんな阿伏兎が好きだから
文句は言えない訳だが。


「暖かい…」


「だからそれはあんたが子供体温だからだ」


「阿伏兎の体温も上がってるだろ
顔赤い」


「…自分も赤い顔して
よく言うな」


互いに笑い合いながら言う。
阿伏兎が目を細めて俺の頬を撫でた。
熱い、と言われたので
熱くないよ、と答えて逆に阿伏兎の頬を撫でた。

触れた頬の体温は
やっぱり少し熱かった。




end

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