□隠し事
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ひょこりひょこりと、歩き方がおかしい。

新八の歩幅に合わせて歩く俺のそれも、いつもより小さくゆっくりになる。
隣を歩く新八を見下ろしても、その表情に変わったところはない。
ただ、いつもなら俺を見上げて銀さん銀さんといろんな話をしてくるのに、視線はずっと道路へと落ちて口数も少ない。

項垂れているわけではなく、顔は前を向けて、視線だけ下へ向けていて。
逆に危ないんじゃないかと思って手を握れば、ぎゃっと色気のない声をあげられた。

「…お前ね、恋人に手を繋がれてぎゃっはないんじゃねぇの?銀さん傷付くんですけど」
「だ、だって突然だったから…」

目、泳いでるぞ。
なにを隠しているのか知らないが、今は俺と一緒にいるんだから俺のことだけ見て考えてなさいよ。
それか、悩みがあるなら言えばいい。
解決できるかは後回し。
幸せも辛さも二人で分けあうのが夫婦なんじゃね?

きゅうっと握る手に力をこめてみれば、言葉に詰まりながら真っ赤になっていく。
前を向いていた顔は次第に角度を変え、もう後頭部しか見えなくなってしまった。
赤く染まった耳や、うっすら色づいた項を見せてくれるのは嬉しい限りだけれど、今はお前の顔が見たい。
どんな表情してんのか、わかんないだろ。

この状況が困るなら恥ずかしいと手を振りほどけばいい。
普段のお前ならやっていることだろ。

「新八ぃ」

手は繋いだまま、しゃがみこんで新八の顔を覗き込む。
耳同様真っ赤になった顔。
うまそうと思ったのは一瞬で、泣きそうになるのを唇を引き結んで耐えているのに気がついた。

そんなに嫌だったのか。
いや、それならここまで真っ赤になるほど恥ずかしがることはない。
遠慮なく、外で手を繋ぐなんて!って説教してくるはずだ。

手を繋ぐのは嫌じゃないけど、素直に喜べないなにかがあるってことか。

逸らされてしまった顔をまじまじと見つめ、一つのことに思い至る。
おかしな歩き方。
そうだ。最初に気になったのはそっちだったじゃないか。

繋いでいた手を離し、思い切り袴を捲り上げる。
膝頭が見えるほど上げてやれば、両足に真新しい擦り傷があった。

すでに血は止まっているものの、うっすらかぶったかさぶたは赤黒くなくまだ赤い。
痛々しい傷は膝頭から足首に広範囲であり、なんの手当もされていないのがわかる。

俺や神楽が怪我をしたら、小さくても消毒しろ水で流せ、絆創膏だ包帯だと騒ぐくせに、自分のことになるとどうして後回しにするのか。

出勤してきた時に治療をするから朝食の準備をしてほしいといえばしたし、手当てだってしてやれた。
なのに、いつも通り俺と神楽を起こし、朝食を作って、俺らが食べている間に洗濯をして。
怪我をした素振りなんて全然見せなかった。

依頼は大切だが、こんな状態で歩き回るのはきついに決まっている。
ペット探しくらい、俺と神楽と定春がいればなんとかなるってのに。

「…これ、どうした」

逃げないように片方の手をふくらはぎに回し、もう片方の指先で傷の周りを撫でる。
くすぐったさとわずかな痛みに小さな声を出す新八に、気付いてやれなかった自分を不甲斐ないと責めた。
新八はすぐに気付くのに。
怪我だろうが熱だろうが、ちょっとした変化があればすぐに気付いて、どうしたんだと声をかけてくる。

なのに俺は。
袴が擦れるだけでも痛いだろうに、それに家で気付くことができなかった。

「銀さん」

袴をまくっていた手に自分の手を重ね、新八の指が袴を掴む俺の指を一つずつ解いていく。
道行く人がなんだなんだと通り過ぎざまに見ていることにようやく気付き、恥ずかしいですよと苦笑する新八に小さくすまんと言うしかできなかった。

傷が痛むだろうに、新八はしゃがみこんで俺と視線を合わし、肌に触れた手を両手で包み込んできた。
そこにはもう赤い顔も痛々しい顔もなく、ただ申し訳ないという顔で笑んでいた。

「心配かけてすみません。出勤途中にフラフラ歩いている酔っぱらいがいて、その人が道路の方へ歩いて行くのが見えて…」
「車がやってきて咄嗟に助けたら、コンクリだかアスファルトだかで盛大に擦ったと」
「銀さんや神楽ちゃんならスマートに助けられたかもしれませんけど、恥ずかしくてつい隠しちゃいました」

人を助けるのにかっこいいも不格好もないだろ。
不器用だろうがなんだろうが、そいつが無事だったことが第一。

けどな。

「ぎゃっ!」

今日二度目の色気のない声を耳にしつつ、新八の体を俵抱きして抱え込む。
これなら袴も足に触れないだろ。

「ちょ、ちょっと!銀さんっ!」

下ろせとじたばたする新八の唇に、さっき足に触れた指を押し付ける。
柔らかい感触にできれば唇で触れたいと思いながらも、我慢。

「先に手当てしに帰るぞ。依頼はそっからリスタートな」

普段手当てをする身のせいか、俺の今の気持ちが十分にわかっているらしい。
すぐにおとなしくなった新八にいい子だと笑いかけ、ウチへと向かった。

俺もできるだけ怪我をしないようにしないと。
擦り傷でさえコイツが傷つくのは嫌だと思ったのだから。
新八がいつも俺の傷を見てどう思っているのかを考えると、気をつけるようにしようと思えた。

















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