書架
□皇都の平和な一日
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キレのある銀の青年の言葉に、濃茶の髪の青年は苦笑してみせ、フォローする為にか口を開いた。
「そう言ってやるな。殿下の脱走癖は今に始まった事ではないし、阻止するのも警備の兵とは言え一兵卒には荷が重いさ」
「キール、貴方みたいに甘い事を言う方がいるから、殿下もちょくちょく抜け出すのですよ?」
そんな、苦笑めいた笑いを瞬時に凍らせるような冷たい声が横から割って入る。
声の主であるジークフリードの表情は、常の如く口元に笑みを湛えてはいるが、すぅ、と細められた目は、声と同じく凍えそうな程冷たい。
直視が出来ずに冷や汗を垂らした濃茶の青年―キールは、そっと視線を横に流した。
その先には、自分は関係ないと主張するが如く、書類を一心不乱に捌くヴェルスがいた。
…何処となく顔色が悪いのは、気のせいではない、と思う。
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