倉庫

□衝突
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 一瞬また打ちひしがれそうになったが、アキラは首を横に振った。

 いくら嘆いても、ほたると狂が入れ替わってくれるわけではない。
 取り合えず、光源(ほたる)が確保できただけでも喜ぶべきなのだ。
 もし食べ物があれば焼くことも出来る。

 むりやり思考を切り替えた。

「取り合えず、燃料だったな」

 一番近い柱へと駆け寄る。
 思ったとおりそれは木でできていた。

「てやっ」

 刀で柱を切り、適当な大きさに切り出す。
 出来た木片をほたるに突きつけた。
 
「ほら、燃料出来たぞ」

 火つけてくれよ。

「わかった」

 ほたるが手をゆるく閃かせると、木片先が勢いよく燃えた。
 肌のすぐそばを炎が掠める。

「ぅあっつー!!
 何すんだよ、ちゃんと炎の勢いくらい調節しろよ!!」

「ごめん、わざと」

 ちょっと脅かそうと思って。

「よけー悪いだろ!!」

 アキラは空いた手で髪の毛をかき混ぜた。
 いちいち腹を立ててもしょうがない事は分かっていても、やはり怒鳴らずにはいられない。

「もう一個同じの作れる?」

「俺の怒りは無視かよ・・・」

 もうなんだか怒る気力もなくつぶやく。
 ほたるが首を横に傾けた。

「ごめんね?」

 何で謝罪が疑問系なんだ、と心の中だけで思ったが口には出さず、ため息だけでやり過ごした。

「木片欲しいんだろ?
 作れなくはないけど、違う柱でやった方がいいかもな」

 あんまりやると柱が折れるかもしんないし。
 アキラは松明を掲げながら隣の柱の前に立った。

「何か今度の柱は、やたらきらきら飾ってあって燃えにくそーだけど良いか?」

「うん」

 ほたるの同意を得て、アキラは片手に刀を取り振り上げた。
 その時、


「待て」


 制止の声を耳にして、動きを止めた。
 低い、男の声。
 
 すぐに身構えて、辺りを見回した。
 ほたるも姿勢を低くしている。


 ほたるの視線の先にあるものを見て、アキラは眼を見開いた。


「お前は・・・」

ほたるの視線の先にあるものを見て、アキラは眼を見開いた。


「お前は・・・」

 薄暗い中、なぜかそこだけが光って見える。
 一段高くなったその場所で、一人の男が立っていた。
 黒地に金糸の刺繍が施された、豪奢な衣装を身にまとっている。
 よく整った人形のような女顔、銀色の長い髪がよく目立つ。

 先程、ほたるとアキラをこの空間に落とした、壬生一族とか言う男。
 アキラは、その青い眼で睨みつけた。


 男がおもむろに口を開いた。

「私の美しいぃ城の美しいぃ柱に傷をつけないでくれるかな」

 ふわり。
 やたら優雅な仕草で人差し指を悩ましげに眉間に当てた。

(何だ、コイツ)

 アキラは絶句した。
 こんな変な人間を見るのはほたる以来初めてだ。

 何も言えずにいるアキラを見て、男は言った。

「私の美しさに言葉を無くしてるのかな?」

 二の腕にぶわっと鳥肌が立った。
 何だこの気持ち悪いやつは。

 硬直していると、ほたるが歩み寄り、袖を引いた。

「ねえ、アイツ誰?」

 硬直が一瞬で解けた。

「俺らを変な穴に落としたヤツだろうが!!
 ついさっきのことを忘れんなよ」

「そうだったっけ?」

「そーなんだよ!!」

 アキラは再び頭をかきむしりたくなった。
 こんな変人ばっかりの空間にいたくない。








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