倉庫

□衝突
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(…ふうん)

 アキラは思いの他鬼目の狂に大切にされているらしい。
 しかし、そんな事はほたるにはどうでもいいことであった。

 そもそもこんな風に気にする事自体珍しい。
 なんだか急に全てが面倒くさくなって、ほたるはさっさと眠る事にした。




「おい!!そこで寝るなよ!!!
 布団で寝ろ!!」



 子供の声がする。
 それと同時に袖口を強く引っ張られて、心底ウザイとおもった。

 普段は警戒して近寄りもしないくせに、どうにも小言が多い。
 この前も、口の端にわさびがついてるとかいって、最終的に口をぬぐわれた。


(ウザイ)


 基本的に眠りを妨げられるのは大嫌いだ。


「あーもー!!襖の前で寝られるとうっとーしーんだよ!!」

 そういいながらも、掛け布団をばさ、と被せられる。
 風邪を引くとでも思っているのだろうか。この初夏の暑い時期に。


「俺は銭湯言ってくるからな!!」

 
 律儀に目的地を告げてから出て行こうとしたアキラは、部屋を出る寸前でつんのめって派手に転んだ。
 だん、という鈍い音と共に床に転がる。

 受身を取っていなければ、もろに顔面を床にぶつけていたかもしれない。

 アキラは両手を突いて後ろを向いた。
 そこには、足首を掴む手がある。

「てんめー何しやがる!!
 ぜってー殺す!!!」

 っていうか、お前寝るんじゃなかったのかよ!!
 アキラの罵声など全くに耳に入っていないかのように、ほたるはぼんやりとアキラを見た。



「俺も行く」

「は?」

「銭湯」

 全く悪びれもせず同行を望む男を、アキラは呆然と見返した。

 街の通りを二人で歩く。
 ほたるはものめずらしそうに辺りを見回していた。
 
(ヘンなヤツ)

 何と言うことはない、普通の街なのに。
 アキラはほたるを見ながら思った。

 あんまり街に出たのことがないのだろうか。
 ものすごく田舎育ちだとか。

「街が珍しいのか?」

 興味に負けて話しかけると、ほたるは頷いた。

「うん、あんまり外の世界に出ないし」

「ソトノセカイ?」

 よくわからない。
 
「まさかとは思うけど、お前モノッすごい良い所のボンボンとか言う事はねーよな」

 自分でもありえないとは思いつつも聞いてみる。

「ボンボン…って梵天丸?」

 その呼び方も悪くないね。

「…もーいーよ」

 どうせ違うだろうしな。
 仕草一つとっても、金持ちには見えない。
 
 取り合えず、この男が桁はずれた世間知らずだと言う事だけはわかる。
 自分だって世間を良く知ってるわけじゃないけど。

 アキラはふと不安になった。


「お前、銭湯ってわかってるのかよ」

「お風呂でしょ」

 まともな返事が帰ってきて、ほんの少しだけほっとする。

「でも入ったことない」

「はあ?!」

 そんな奴みた事がないぞ。
 アキラは思わずまじまじとほたるを見た。
 けれど、次の瞬間、自分も狂に会うまでは銭湯なんて高尚な物には入ったためしがないことを思い出した。

「もしかして、お前、モノッすごい貧乏だったのか」

「うーん。
 どうだろ?」

 わかんない。
 ほたるはどうでもよさそうに答えた。

「だーッ!!
 ほんとーに良くわかんない奴だな!!」

 

 そうこうしている間に銭湯に着き、アキラは何も分かっていないほたるの面倒を結局見る羽目になった。
 とりあえずは、服を脱ぐ所から。







 その夜。
 

 真夜中に宿に帰ってきた梵天丸は、音もなく寝静まる部屋に滑り込んだ。

 よく眠るアキラを見つけ、その髪をクシャリと撫でてやる。
 うーん、と安心しきった寝言が聞こえた。




「ねえ、ボン」

「っどわッ!!おめー起きてたのかよ!!」

 梵天丸は闇の中でも輝く金色の髪を見つけた。
 金色の眼が、こちらを見ている。
 
「ううん、今起きただけ」

「そーか。
 お前移動と闘い以外はほぼ寝てるもんな」

 真夜中に眼が覚めてもおかしくはない。

「何で、アキラは青いの?」

「は?」

 いつもながら唐突な質問に、梵天丸は固目を見開いた。







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