倉庫
□衝突
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「なあ、狂」
昼下がり、木の下で一服する狂の隣にアキラは腰掛けた。
なんだ、とは言わずに狂は僅かにその紅い眼だけをアキラに向けた。
「なんであんな奴連れてきたんだ?」
アキラは新しい新参者に、怒りを覚えていた。
まず、人の話を聞かない。
ぼうっとしているくせに、近寄ろうとするとすぐ睨んでくる。
「なんかアイツさ。
昔みた野良猫みたいなんだよ。
触ろうとするとすぐ毛を逆立てて怒んだよ。
別に、あいつに触りたいわけじゃないけどな!!」
あの、やわらかでふわふわしていそうな髪は、触ってみたいと思うけれども。
狂はアキラの言葉を黙って聞いていた。
口元から煙管をはずし、白い煙をふわりと吐いた。
「面白そうだから連れてきた」
ほたるのことを言っているのだと、しばらくしてから気づいた。
答えてくれるだけでも上出来の部類だが、狂の言葉は短すぎて難しい時がある。
いつか、すぐわかるようになろうとは思っているけれど。
「面白そう?」
アキラは首をかしげた。
アレのどこが面白そうなんだろう。
思わず狂を見たが、狂が目を閉じたので質問するのをやめた。
*
紅の炎。
「ぐあっ!!」
襲い掛かってきた男たちを、ほたるはあっという間に倒した。
アキラの眼ではやっと捕らえられるくらいのスピード。
しかも呼吸一つ乱さない。
(いつもぼーっとしてるくせになんであんなに強いんだよ!!)
アキラは双刀を振るいながらほたるを見た。
今日は、たまたま通りかかった戦場を突っ切ることになった。
ほたるも交えて戦うのは、始めて。
想像以上のほたるの強さに、アキラは驚いていた。
先頭では、狂が鬼神のような強さを見せている。
それをアキラは憧れの眼で見つめた。
あの背にいつか追いつくのだ。
「てめえ、どこ見てんだよ!!」
相手をしていた男が切りかかってくる。
それをひらりとかわし、左の刀で牽制した後、右で切りかかった。
声もなく男が倒れる。
強くなる。
この世で二番目に強い男になるために。
狂の背中を強く見つめるアキラは、自分を見つめる金色の眼差しには気がつかなかった。