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□衝突
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 ある日、狂が変な奴を連れてきた。



 衝突



「新しい俺様の下僕だ」

 狂は、その一言を残して立ち去った。
 残されたのは、金色のお下げの青年。

 男でお下げなんて気持ち悪いはずなのに、何故かそいつには良く似合っていた。
 しかも、女々しさは微塵も感じられない。

 なんだか、月の光みたいな髪だな。


 アキラは、思わずその姿に魅入った。
 すると、熱心な視線に気がついたのか、顔を上げてこちらを見た。

 
 うわ、また金色だ。


 アキラは目を見開いた。
 こちらを見るその眼は金色。
 こんな派手な色合いの奴は見たことがなくて、アキラは驚いた。

 そいつも、僅かに目を見開いてアキラを見た。
 が、すぐに眼差しを尖らせた。

 睨まれている、と気づいたのは次の瞬間。

「何睨んでるんだよ!!!」

「…」

 アキラは思わず怒鳴りつけた。
 しかし、相手はこちらを睨むばかり。
 こんな相手は始めてで、調子が狂う。

「何黙ってるんだよ!!
 何とか言えよ」

「うざい」


 その三文字が、新参者のアキラに対して発せられた最初の言葉だった。


「なんだとお〜!!」

 思わず胸倉を掴もうと手を伸ばす。
 一瞬前にひらりとかわされた。

「弱いね」

 見下すのではなく、ただ事実を述べるような口調。
 だから余計に腹が立った。

「俺が弱いだと?!
 試してみるか」

「試すまでもないけど、やる?」

 弱い奴とはあんまりやんないんだけどな。
 
 二人は刀を抜いて向かい合った。
 まさに一触即発。

「おいおいおい、仲間同士でやりあってどうすんだよ」

 そこに、のんびりとした声音が割り入った。
 先程から少し離れた所で、こちらの様子を眺めていたが、いつのまにかすぐ近くにきていた。
 アキラは梵天丸を見上げた。

「だって、梵天丸!!
 こいつ、すっげー失礼なんだぜ?」

 人を弱いとか決め付けてさ!!
 悔しそうなアキラの頭を、梵天丸は大きな手で柔らかく叩いた。

「悔しいのは分かるけどよ。
 こいつは、狂が連れて行くって言ったんだぞ。
 だからもう仲間だ。
 お前なら分かるだろ?」

 そんな風に言われて、否と言えるわけがない。

「…分かるけど」

「じゃあ、いきなり切り合いはまずいだろ」

「…うん」

 なお悔しそうにしながらも、アキラはおとなしく刀をしまった。
 それを見届けて、梵天丸は男の前に立った。

「今聞いたと思うけど、俺は梵天丸ってんだ。
 お前の名前は?」

「……さあ」

 男はゆっくりと首を傾げた。
 アキラは驚いて思わず勢い良く顔を上げた。

「お前、自分の名前もわかんないのかよ。
 オレだって「アキラ」って言う自分の名前は覚えてたぞ」

 せっかちなアキラは、頼まれもしないのに自分から名乗る。
 
 男はぼうっと突っ立ったまま、小さくつぶやいた。

「…ぼん、とアキラ」

 
 ふわふわと視線をさまよわせる。

 つられてアキラも男の視線の先を追った。
 その眼に、美しい光の線が飛び込んできた。
 それは、初夏の羽虫。

「ほたるだ!!」

 すっかり嬉しくなって、目の前の男のことを忘れてはしゃいだ。

「…ほたる」

 男がつぶやいた。

「ほたる、好きなのか?」

 梵天丸が聞くと、首を振る。

「それ、俺の名前」

 
 新たな旅の仲間は、ほたると名乗った。
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