小説
□罪の輪郭 後編
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「あ、雨」
目の前の石畳に黒く染みができるのを見つけて、アルフォンスはつぶやいた。
この体は雨を感じる事はできない。
だから、当然情報認識は視覚と聴覚に頼らざるを得ない。
少しぐらい濡れても問題はないが、鋼のよろいに錆が浮くと何かと手入れが面倒だ。
アルフォンスは今来た道を引き返そうとした。
しかし。
あっという間に強くなった雨に、足を止められてしまった。
慌てて辺りを見渡し、無人の小屋を見つけて軒下に駆け込んだ。
「あ〜あ。帰るの遅くなっちゃうよ」
兄さん心配するだろうなあ。
思わず愚痴をもらしてしゃがみこむ。
とはいっても、このままずぶぬれで帰ったらそれはそれで激怒するだろう。
お前何考えてんだよ!!
その血印なくなったら、お前死ぬんだぞ!!
きっとそう言って、泣きそうな声で怒るのだ。
そんな兄の顔を見ると、申し訳なると同時にひどく安心する自分がいた。
心配してくれるのが嬉しいというだけではない、どこか暗い悦びを感じている自分を知っていた。
そんな自分をおかしいとは思っても深く考えた事はない。
この感情に、名前をつけてはいけない。
そんな気がしたから。