小説

□罪の輪郭 前編
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 それは、罪そのもの。







 罪の輪郭




「君にとって、この世で一番大事なものは何かね」

 突然振ってきた質問に、エドワードは眉を寄せた。

「はあ?」

 質問を発したのはロイ・マスタング大佐。
 そして、ここは彼の執務室だった。

「春で頭沸いたか?」

「失礼な。
 純粋なる興味だよ鋼の」

 最後の呼びかけはやけに強く聞こえた。
 この男は、こっちが嫌がると知ってわざとあの呼び方をしているのだ。
 腹を立てると相手の思う壺である事はわかっているのだが、短気な性格は直そうと思って直せるものではなかった。

「うっせー。
 それを俺に言わせてどうする」

「だから、興味だよ。
 鋼の。
 適当でもいいから答えて見せたらどうかね」

「・・・ならあんたはどうなんだよ、大佐」

「私の一番大事なものは、権力だ」

 ロイは平然と答えた。

「さあ、答えたまえ鋼の」

「・・・俺の罪だ」

「は?」

「俺の一番大事なものは、俺の罪だといっている」

「それは、またなんとも被虐的だね」

「なんとでもいえ」

 降り注ぐ視線を避けるようにして、エドワードは執務室を後にした。








      *






「兄さん」

 柔らかい声に呼ばれて我に返った。
 エドワードは宿のベッドに寝転んだまま、声のほうを見た。
 大きな鋼の鎧が目に入る。
 それが、弟のアルフォンスだ。


 鎧は小首を傾げて見せた。

 

「何考えてたの?」

「いや、ちょっと今朝の事をな」

「今朝って、大佐の事?
 書類と提出に行った時にまたケンカでもしたの?」

 兄さんは本当にに喧嘩っ早いんだから。
 宥めるような声に、エドワートは顔をしかめた。

「俺は悪くねーぞ。
 大佐のやつがへんなこと聞いてきやがるから・・・」

「変な事?
 どんな事聞かれたの?」

「お前がこの世で一番大事なものはなんだって・・・」

「へえ。 
 それで、兄さんなんて答えたの?」

 聞き返されて、エドワードは返事に詰まった。

「・・・答えなかったよ」

 さりげなく嘘をついた。

「ふうん」

 アルフォンスは苦い顔をしている兄をしばらくじっと見ていたが。
 やがて諦めたように首を振って視線を外へとやった。
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