小説

□クリスタル
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 この世界の、綺麗な物だけをあげたい。







 クリスタル




「なあ、大佐。
 もしアルの体を練成できたら、アイツをどっか田舎に隠してやって欲しいいんだけど。
 できる?」

「…いきなり現れて、第一声がそれかね」

 突然振られた話題に、ロイは手に持っていた書類から眼を離した。
 目の前に立つ、金色の少年を見る。

 初めて会ったときより、ずいぶん大人びた。
 背も伸びて、年相応と言うわけには行かないが第一印象が「小さい」と言うほどではなくなってきた。

 それでも、怒りっぽい所や雑な所は変わらず、それがどこか周囲を安心させていたのに。
 今日はどこまでも真剣で静かな眼をしている。

「つまり、練成した弟を隠す場所を確保できるかと言う事か?」

「そうだ」

「それは・・・できなくもないが。
 どこに言ってもヒトの目と言う物はあるからな。
 それなりに危険はあるぞ」

「だーかーら。
 それが一番少ないとこを探してくれって頼んでんの」

「なるほど・・・。
 で、君がそんな事を言い出すということは練成のめどが付いたと言う事かね」

 ロイは探るような眼でエドを見た。
 エドは嫌そうに顔をしかめた。

「だからオレはあんたの事が嫌いなんだ」

「その顔が答えだと思っていいみたいだね」

 大佐はわざとらしく微笑む。


「焦れったいな。
 yesかnoかはっきりさせろ」

「まあ、待ち給え」

 答えを迫る少年の前で、ゆっくりと腕を組み替えてみせた。

「その前に確認したい。
 君たちの手助けをすると事には、私にもそれなりにリスクがある。
 見返りを期待してもいいのかな」

「期待していい」

 エドワードはきっぱりと言った。

「どんな見返りかな?」

「軍の狗じゃなくて、あんたの狗になってやる。
 何でもしてやるよ。
 人殺しでも。
 ただし、アルにはばれない範囲でだけど」

 こんな天才を自由に使えたら、あんたの夢の実現にも有利に働くと思わないか?
 
 エドワードは不適に微笑んだ。

「覚悟は立派だが・・・果たして本当に人殺しができるのかね」

「できるよ。
 アルのためなら」

 エドワードは迷いのない眼でロイを見つめた。

「・・・確かにできそうだね。
 いいだろう、条件を飲もう」

 答えはyesだ。

 そう言ったとたん、目の前の少年の肩から力が抜けるのが、はっきりと見て取れた。

「助かる。
 それと、もう一つ。
 これはできたらでいいんだけど、願いを聞いてくれるかな」

「なんだね。
 ここまで君が譲歩した以上、ある程度の望みは適えてあげよう」

「アルが、練成後に隠れる場所は、できたらうんと綺麗なとこにしてやってくれ。
 空が広くて、緑がたくさんあって、住む人々は純朴で」

 朝には白い光が窓を照らし、夕には赤く輝く太陽がゆっくりと海に沈んでいくような。



「この世界の、綺麗な物だけをあいつに見せたい」

 

 エドワードはゆっくりと目を閉じた。


「それが、オレの一番の望みだ」

 



 


 
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