小説

□ピュアブルー
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 本当の幸せって何だろう?





 ピュアブルー




「やってくれたな。バカ兄」

 僕は、目が覚めたとたん呟いた。

 目に映るのは、見慣れない木の天井。
 知らない建物にいることは、すぐにわかった。

 のろのろと立ち上がる。
 とりあえず、すぐそばの窓から外を覗くと、美しい森の景色が目に入った。
 
 その美しさに感心する前に、アルフォンスはため息をついた。

 
 おかしいと思ったんだ。
 僕の様子を、あんまりにも注意深くみてるから。

 自分が練成した肉体の調子が、そんなにも気になるのかと思ってた。
 
 

 そう。
 兄さんのお陰で、僕は元の体を取り戻した。
 稀代の錬金術師。
 兄さんは僕の誇りだよ。


 取り戻した直後は、栄養補給やリハビリが必要で。
 兄さんは一月の間、付きっ切りで世話をしてくれた。
 僕は、はっきり言って幸せだった。



 それなのに。
 
「体調が戻ると同時に『コレ』はないと思うんだよね。兄さん」

 今は、そばにいない人に呼びかける。
 

 気を失う直前。
 アルフォンスは、兄とお茶を飲んでいた。
 
 珍しく兄さんが入れてくれたんだよね。
 どうして、おかしいと思わなかったんだろう。


 気がついたら見たこともないところに放置されていた。
 もう、マヌケとしか言いようがない。



「今度あったらボコボコにしてやる」

 呟いては見たけれど。
 次、会えるのっていつなんだろう。

 どうせ、練成した僕を隠すためとか何とか考えて、人気のない場所に住まわせようと思ったんだろう。

 ほんとに、もうちょっと考えたらわかりそうなことだった。
 
 兄さんが、練成した僕をそばに置こうとはしないはずだって事。
 僕は、兄さんといられる幸せに有頂天になってたんだ。
 
 兄さんはその間に、どうやって僕を連れ出すか考えてたんだろうね。
 その考えは正しい。
 だって僕は、こんな風にでもされなかったらそばを離れようなんてしなかっただろうから。



「一人の夜は嫌だって言ったじゃないか」


 兄さん。
 今はいない人に呼びかける。

 あなたのそばに、いたいんだよ。
 どんな形でもいいから。

 その望みは、兄弟でいる限り簡単に適えられる物だと思ってたよ。
 どうやら思い違いだったらしい。


 そっちがそういうつもりなら、僕にも考えがある。
 僕は、自分の望む居場所を確保するための苦労を厭わないよ。


「とりあえずは、ここがどこなのかを把握しないと」

 窓から視線を離して、大きく伸びをした。
 

 僕は欲張りなんだよ兄さん。
 一番欲しい物を、諦めるつもりはない。



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