小説

□グラスハート
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 そばにいて欲しいというから、そばにいる。
 そこに自分の意思なんか、ない。







 グラスハート




 アルフォンスの体は元に戻った。
 

 前からの推測どおり、自分と弟の精神はリンクしていたらしい。
 戻ってきた弟の体は、それを失ったときよりも成長していた。
 と言うより、自分より大きかった。



『兄さんは、自分よりも僕に栄養をくれてたんだね』



 練成直後。
 
 生れ落ちたばかりのアルフォンスが泣きながら言った。
 エドワードは首をふって、その涙に濡れた頬を両手に挟んだ。
 

『兄さん?』


 その顔じゃなくて。
 俺が望んだのは、

 じっと見つめると、意思が通じたかのようにアルフォンスが微笑んだ。
 穢れのない、天使のような笑顔。

 あの日から、ずっと凍り付いていた心の一部が溶ける。
 それは、涙となって零れ落ちた。


『・・・兄さん』

『その顔が、見たかったんだ』

『兄さん』

『その顔が、見たくて・・・ッ』

 アルフォンスがやさしくオレの髪を撫でた。
 嗚咽がとまらない。
 泣きたくなんて、無いのに。

『ごめんな、ありが・・・っとう。
 ごめん・・・っな』

 言いたいことがありすぎて、うまくいえなかった。
 アルフォンスは黙ってオレの髪を撫でてくれた。


 本当は、オレがアルフォンスの髪を撫でてやら無くてはならないのに。
 なんてふがいない兄なんだろう。

 なんて優しい弟なんだろう。

 誇らしさと、申し訳なさが胸を満たす。
 それが新たな涙を生んだ。

『兄さん。
 ありがとう。
 ありがとう。
 誤ってもらう事なんてひとつもない』

 エドワードは首を振った。

『そんなこと…っ』

『もういいんだよ。
 兄さん。
 全ては終わったんだよ。
 これから始まるんだよ』

『アル…』

『一緒にこれから、はじめよう。
 はじめてくれるよね、兄さん』

 一緒に、二人で。

 その言葉に目が眩みそうになった。
 
 共に進むことを望んでくれるのか。
 こんな、オレと。

『俺で良いのか?』

『何言ってるの、兄さん。
 僕は一人は嫌だよ』

 アルフォンスは首をかしげる。

『そばにいて、兄さん』

『お前が望むなら』

 ゆっくりとうなずくと、アルフォンスは嬉しそうな顔をした。

『じゃあ商談成立』

 アルフォンスは目の前に手を差し出してきた。
 自分より少しだけ大きな、左手。

 生身の手の平で握り締めた。

 

 

 その手は、焦がれるほど望んだ弟の体温を伝えた。
 
 



 
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