短編

□大事な日
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夕暮れ時に







「なんや跡部‥今日は休みかいな…」

だだっ広いテニスコートに立って呟く。
あのいつもの、キャーキャーと五月蠅い女子の黄色い声が聞こえない辺り、部室にも居ないのだろう。

「おーい、侑士〜。打とうぜー?」
「あぁ、岳人‥俺今日休むわ」
「はっ!?だってもうジャージに着替えてるじゃねぇかよ!」
「ほな頼んだで」
「ああ"っ?!侑士ーっ!!」

今の忍足にはやる気も何もない。原因はもちろん恋人の跡部の事だった。
ここ最近、ずっと放ったらかしにされている。メールをしても一通二通で終わってしまい、返ってこないのだ。
電話もその通りで、出てはくれるのだが"用事があるから"と3分とたたない内に切られてしまう。
まぁ、その事について質問をすれば良いのだが‥ウザい奴と思われて、別れるハメになるのも嫌だった為、極力表に出さないようにしていた。
だからと言っていつまでも忍足の我慢大会が続く訳もなかった。
そしてついに忍足は、跡部に何故最近構ってくれないのか問い質す事にした。
向かうは巨大な跡部邸。家門に立っただけで、誰もが一度はたじろぐ豪邸に、跡部は住んでいる。
携帯でタクシーを氷帝学園前に呼び、ササッと着替えて足速に部室から出ていった。






―――跡部邸家門。


「デカ…」

何度か目にはしていたが、やはりこの家門にはたじろいでしまう。
あまりの大きさに圧倒されてしまい、しばし呆然とその門を見つめていた。
すると、不意に肩に手が置かれ、それに驚いた忍足は反射的にパッと後ろを振り返り身構えた。
が、振り返った先に居たのは会いたかった跡部だった。思わず抱き付いて、少し泣いてしまった。
跡部は優しく抱き締め返して背中を擦りながら、無言でそれに付き合った。


それから跡部邸内に招待された忍足は、いつも通される客間とは違う、別のやや小さい客間に案内された。何故かこの客間にはベッドがある。
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