短編

□好きなのは…
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ある日、俺は小さな嘘を吐いた…






未来の姿








何事かあったのか、ざわざわと煩い廊下に嫌気がさして、不二は、今は人気の少ない音楽室へと足速に向かって身を潜めた。
この青春学園の音楽室は、言わば防音材が施された壁や窓硝子で、先程の騒がしい生徒達の声等、少しも聞こえてこない。
その教室のひんやりとした銀色のドアノブを軽く回して音楽室へ入ると、不二はやや強張った表情を緩めて、窓際の一番後ろの隅の席へと足を運び、椅子には座らずに机の上に腰を下ろして、息吐く暇もなく窓の方へと視線を遣った。
暦上は秋だが、時期的にはまだ夏の為、外は夕方5時でも十分に明るかった。
しかし、やや暮れてきている陽射しに、音楽室内は淡くオレンジ色に染め上げられていた。
勿論、その教室内にいるのだから不二も例外ではない。

「…早く、夏が過ぎれば良いのに」

窓の外にある大きな太陽を眩しそうな、忌ま忌ましそうな表情で見ると、不二は小さくそう呟いて溜息を吐いた。
それから間もなく、太陽とは逆にどこか冷めた眼差しを音楽室内の空気へと向ける。
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