Short

□無題
1ページ/2ページ

昔住んでいた地元に帰ってきた。
長時間、車を運転していたせいで疲れてはいたが、どうしても昔遊んだ彼に会いたくて、疲れた体に鞭を打ち、森へ行った。
木に登って遊んだ事も、彼のあの手の温もりも今日まで忘れていたが。
あれは、何年も前の事だ。
僕がまだ幼かった頃、森で遊んでいる時に一人の少年に出会った。
その少年は不思議な格好(平安時代の貴族のよう)をしていて、自分は妖狐だと言っていた。
今は信じていないが……幼かった僕は彼が妖だと信じ、無邪気な笑顔に彼が人外だと恐怖心も抱かず、毎日一緒に遊んでいた。

ある日、いつものように彼と遊び、夕方頃帰ろうとした時、僕は少し悪戯心を抱いて、彼から離れ木に登った。
彼は思った通りに、僕の事を探してくれていた。
僕は彼が探してくれた事が嬉しくて、もっと彼の姿を見たくて、乗っていた枝から身を乗りだし……落ちた。
それに気付いた彼は助けようとしてくれたけれど、間に合わず、僕は頭をぶつけ気を失ってしまった。
目が覚めた時、僕は家にいた。親から聞いた話だが、僕の帰りが遅いのを心配して探していたら、森の入口付近に倒れていたらしい。
僕が彼と遊んでいたのは森の奥の方だから、彼が運んでくれたのだと思う。
それから、二日間程して僕は彼にお礼を言いに行ったが、会えなかった。その日から毎日毎日、会いに行ったけれどやっぱり会う事は出来なかった。
15の時、僕は県外の高校を受け、この地を離れた。何年も帰っていなかったから、すごく懐かしい。

「久しぶりだなぁ。ここへ来るのも」

彼と初めて会った祠は、すっかり寂れてしまっていた。
昔はもう少し綺麗だったと思ったけれど。

「手入れ……すればいいのにな」
「本当じゃな」
「え?」
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ