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□暴言
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※後半ちょっと病んでる




「名無しさん海に飛び込んで」
「それ死ねってこと?私に死ねと?」
「それ以外に何があるの?あ、素潜りする?」
「死ね瞬木」
「お前が死ね」

瞬木の笑顔に私も笑顔で返す。
周りはいつもの光景に「はいはい」とでも言うように短い溜め息をついた。

瞬木隼人は私の天敵だ。


特に何の取り柄も無いのに何故か新生イナズマジャパンのメンバーになり、最初は戸惑っていた。
だが瞬木が色々とフォローを入れてくれて何とかやっていけると思ったら本性はこれか。
接していくうちに「あれ?何か違うな」と思っていたものの、特に気にしてはいなかった。
まさかとは思ったが奴は私のことなど微塵も友達とは思っていなかったのだ。

吹っ切れて「ダークサイド瞬木」とかいう訳わからない名前に改名してからずっとこの調子。
笑顔で暴言吐かれるわ陰湿な嫌がらせしてくるわ終いには「あれ?名無しさんって女だったの?」とお風呂に沈まされるわ。
あの時は本当に生命の危険を感じたね。



「いい加減俺の足引っ張るのやめてくんない?」
「足速いだけでしょ」
「足速くてごめんねぇ?何の取り柄も無い名無しさん?」
「キャプテーン瞬木君が苛めてきまーす」
「キャプテンにチクるなよ」

蔑むように私を見つめる瞬木に苛立ちを覚える。
こいつ…自分のことは棚に上げといて……!!
自分を呼ばれたキャプテンは天使の笑顔で「どうしたの?」と駆け寄ってくる。
やばい…キャプテン天使!!
何の取り柄も無い私を励ましてくれたりチームの皆を心配してくれたり、とても1つ年下とは思えない。

「キャプテン可愛い、好き」
「?ありがとう?俺も名無しのこと好きだよ!!」

にこーっと笑ってくれるキャプテンまじぎゃんかわ。
おっとしまったつい本音が。
私の後ろに居る悪魔のような男とは大違いだね!
新生イナズマジャパンの皆は瞬木を除いて全員いい子達だ。可愛くてかっこいい。
剣城君はクールだし、神童君は真面目でしっかりしてるし、井吹はちょっと自分勝手だけどいつも頑張ってる。
九坂君は男前。鉄角は素直で超いい奴、真名部はツンデレだけど優しいし皆帆はちょっと変だけど人のことよく見てる。
信助君のあの可愛さは何だろうね!座名九郎は大人な雰囲気でよく和ませてくれる。

皆このダークサイドとは大違いだ!!


「ねぇちょっと」


空気が凍った。



恐る恐る後ろを振り向くと表情の無い瞬木がこちらを見ていた。
怖い、殺される。
恐怖のあまり瞬木に腕を引っ張られるのも抵抗出来なかった。
私はまだ死にたくない。


だんっ


「っつ」
ミーティングルームを出るとすぐに力任せに後ろから背中を押され私は堅い床に身体を叩きつけられる。
すぐ立ち上がろうとしたが瞬木が私の背中を踏みつけそれは許されなかった。
何これイジメ、本格的なイジメだ。
最近痣が絶えないんだけど、君のせいじゃないかこれ。

「何っ…っすんの!!」
「名無しさんまじ死んで、俺すっごい不愉快」
「不愉快なのはこっちっ、」

肩を強く掴まれ仰向けにされ、瞬木に跨がれる。
あ、これギャクになるかな。
俗に言う馬乗りされている状況だ。私より身長が高く体重も重い男に乗られているせいか骨がみしみしいっているのが聞こえる。
あまりの痛さに表情を歪ませながら、必死に涙を堪える。
瞬木はその反応に比例して更に力を込めた。
アスリートと一般人の力の差を理解していない。本当に明日動けなくなるかもしれない。

「いいね、名無しさんのその顔」


瞬木はやはり蔑んだ目で私を見ながらも口角は上がっている。
やだこのサド……!!

いつの間にか先程とは打って変わって恍惚とした表情で私を見下ろし、首に手を掛ける。
急に酸素が吸えなくなった私は必死に抵抗をするもの、苦しくなっていくだけだった。


「っか」
「ねぇ名無しさんって本当に馬鹿だよね」
「っ」
「俺に逆らえると思ってるの?ちょっと勘違いしてない?」
「何っ…が…」
「名無しさんは俺だけ見てて俺だけと会話して俺だけ考えて」
「……」


訳が分からない。
あれだけの暴言を吐かれたのに、今彼が私に囁いている言葉は明らかに好意が含まれたものだ。
矛盾している。
その恐怖に私の背筋は凍り、体温が一気に下がった。


「うん、俺名無しさんのその表情好き」
「……」
「そうその怯えきった顔、そんな表情見せるの俺だけだろ?」
「……」
「暴言吐いたら名無しさんは怒って俺とだけ喋ってくれる俺だけ見ててくれる俺のことで頭いっぱい。それにその顔、ぞくぞくする」

瞬木は少しぞんざいに私の首筋を人差し指でなぞる。
鳥肌がたったが別になぞられたからではなく、瞬木の更なる本性を知ってしまったからだ。
愛情が歪んでいる。つまりあれか、好きな子は傍にずっと置いておきたいタイプか。
あまりの混乱に文字通り言葉を失った。


「……」
「聞いてんのか」
「……瞬木」
「ん?」


こんなのおかしい。と一言呟くと瞬木は一瞬目を見開いたがすぐに昔のような貼り付けた笑顔を浮かべて私の首から手を離した。
やっと解放されたことに私は安堵を覚えながらも瞬木が不安でならなかった。

取り敢えずキャプテンに相談かな、と溜め息をつきながら黙っている瞬木を余所に立ちあがろうとしたその時、

へらへらとした笑顔を浮かべた瞬木が私の手首をこれでもかって位強い力で掴んだ。


「だったら俺に普通を教えてよ」
「またっ」
「名無しさん」



――俺から逃げようなんて最初から無理なんだよ



彼が最初に私に話しかけてきたのはそういうことで、






(何でそういう方向に走るの瞬木)
(ねぇ皆聞いて―俺と名無しさん付き合うことになった)
(断じて違いますえぇはい。井吹納得した顔辞めてくれる)
(照れんなって)
(死ね井吹)
(お前が死ね)
(俺以外と何喋ってるの?沈んで名無しさん)









最初は瞬木嫉妬ツンデレにするつもりだった。どうしてこうなった。瞬木好きです。
きっとこれが彼の通常運転だと信じている。何か展開が毎回一緒になる。


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