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□コミュ障(仮)
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「ほら京介教室入りなよ」
「……無理」
「だってクラス違うし私じゃどうにも出来ないよ」
「無理」
「……」
「無理」
「まだ何も言ってない」


幼馴染の剣城京介はサッカー以外では殆どコミュニケーションがとれない所謂コミュ障だ。
私と優一君以外にはまともに世間話も出来ない。
最近は松風君を筆頭にサッカー部の部員と話せるようになったらしいが教室ではまだまだこの有様。
私の鞄を掴んで離さない。小さくぶるぶると震えながら周りにはそれがばれないように立っている。
毎朝毎朝教室に送り出す私の身にもなってくれ。というか思春期の男の子がこれでいいのか。
もっと中学生になったら異性の幼馴染ってギスギスして急に話さなくなるんじゃないかとちょっとわくわくしてたのに。

溜め息混じりに京介の頭を背伸びして撫でると一瞬肩を震わせたもの気持ちよさそうに目を閉じた。
こら、その反応を期待したんじゃないよ。
お前ツンデレだろ。ここは振り払って焦るのがテンプレ通りってやつじゃないのか。

「私の教室来る?」
「…それも嫌だ」
「何で」
「松風が居るとお前との距離感が分からない」
「私も分からん、あ、松風君」
「!!」

京介は身体を強張らせ静かに腕を組んで私と距離をとった。
私の口からサッカー部員の名前が出ると京介は急にクールになる。
京介がコミュ障を脱した方法はクールになることだったらしい。
そのせいかサッカー部員が居る時は私の傍へ寄ってこないようにしているらしく後で二人きりになった時泣きそうな顔で「嫌いになったか?」と縋ってくる。
あれ?これただの依存じゃん。ヤンデレルートに入らないように注意しておこう。

「嘘、松風君いないよ」
「騙したな」
「いひゃいいひゃい」
「俺を騙す名無しが悪い」

頬を抓られるなんて横暴だ。
京介の顔は緩みきっていて昔の小さい京介を思い出す。
何でこんなイケメンになったんだろう。私がどきどきして心臓に悪いわ。

「京介そろそろ私から自立した方がいいよ」
「っ」
「今はサッカーもあるし松風君達も居るじゃん」

それに可愛い葵ちゃんも居るし。そうだ!葵ちゃんはどうかな!私より気が利くし優しいし何より京介とお似合い。美女美男カップル。優等生と不良。少女漫画出来そうだ。
あ、でも松風君と葵ちゃんいい感じだもんな、あの二人幼馴染だし…え、どうしよう。

……京介静かだな。

だんまりをきめこんで俯いている京介が心配になって顔を覗きこむ。
ちょっと言いすぎたかな?自立しろとかまずかったかな?
泣いちゃったのだろうか京介。


ぐいっ


「え」

京介に強い力で引っ張られ壁に叩きつけられる。
おまっ、自分の力考えろっ私より身長10cm以上でかいんだからっ、と酸素を求めながら考えていると耳のすぐ横の壁を京介が音を立てて殴った。
私の顔から血の気が引いていく。京介に殴られたら、死ぬ。
何よりまず、京介の目がぎらぎらしていてまるで血を吸う前の吸血鬼のようだ。
正直言って、怖い。

「お前は俺のこと嫌いなのか」
「いや、好きとか嫌いとかの問題ではなく」
「いいから」

答えろ、と京介は言いたかったのだろうがそれを言うことは許されなかった。


「あれ?剣城?」
「こんな所で何やってるの?」

空気が読めないうちのクラスの仲良しコンビと葵ちゃんに目撃されたからだ。


「ちょ、ちょっと天馬信助!!邪魔しちゃだめだって!!」
「え、ごっごめん剣城ななし!!」
「あー…」

取り敢えず京介に壁ドンされながら「お構いなく」と返しておく。
京介はというと思わぬ事態にそのまま固まってしまった。
これ今日中にはサッカー部員全員に広まっているだろう。何これ怖い。

「じゃ、じゃあ私達行くから!!ほんとごめんね!!」
葵ちゃんが仕事人のような速さで私達のもとを去る。
さすが恋愛マスター葵ちゃん。行動が速い、速すぎる。


「……何だあいつら」
「京介の友達でしょ」
「タイミング悪すぎるのも程があるだろ!」
壁ドンのまま私の肩に頭を預けて崩れ落ちる京介。
これこそ目撃されるとやばいやつだ。
混乱した頭で京介の頭を再び撫でる。
私はこの機会を待っていた。

「きっと神様が大人しく教室に入れって言ってるんだよ」
「ドヤ顔腹立つ」
「ほら予鈴鳴った」

京介にとっては悪魔の予鈴だ。今からまた誰とも話さない4時間が始まる。
お昼休みにそれまで喋ってなかった分を取り返すかのように京介はひたすら喋り次の2時間喋らず過ごす。
そしてサッカー部に行ってボールで会話をするのだろう。
帰りは松風君達と帰ったり図書室で勉強している私を迎えに来て一緒に優一君の所へ行ったり。


「頑張れ京介!」
「…頑張りたくない」
うなだれて京介は私に抱きついて来た。
おぉあと本鈴まで3分。手っ取り早く京介を引き離す方法を働かない頭で必死に考える。
……あ、


「っ」
「いってらっしゃいのキス」
「おまっ」
「されたくなかったら明日から頑張れ」
京介の頬に唇を寄せてキスをする。流石に好きでも無い異性にされるのは京介だって堪えるはずだ。ざまぁみろ。

せせら笑いをしながら去る私に京介がぼそっと何か呟いたが私には聞こえなかった。





(…毎回こうだったらしてくれるってわけか)
(…………明日も駄々捏ねよう)










リハビリに。よくわからんことになった。
コミュ障部分全く出てない。アニメでだんまり剣城が気になったので。

 

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