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□数字
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月山国光には天才がいる。


雷門中学でずっと学年トップの成績を採り続けてきた俺は月山国光でも首位をキープしようと思っていた矢先にこれだ。
何でも噂の「ななしさん」がいるそうだ。
成績は常に学内トップ、模試でも全国指折りの成績上位者で何処に出しても恥ずかしくない優秀な生徒。
ただ、要領がいいとか文武両道だとかいうわけではなく寧ろ勉強しかしない。

そう、


今現在進行形で俺を完全に無視して参考書と仲良くしているように。



「……」
「……」
そろそろ腹が立って来た。
今度の中間テストで挑戦状ぶったたいてやろうと思ってたのにこいつは俺の存在にすら気付かない。
カリカリとただ無機質なシャーペンがノート上を滑る音しか聞こえてこない。
試しに少し音をたててみるが、やはり気付かない。

どうしたものか。

何て眺めていると噂のななしさんは想像とは全然違った容姿だということに気付いた。
黒髪三つ編み眼鏡という三拍子が揃った典型的なガリ勉だと思っていたが目の前に居るのはそこそこの女子だった。
華やかな訳ではないが、可愛いという部類に入るだろう。髪型にも多少気を使っていると見えた。

何でこんなやつが。

嫌悪感が拭えないでいるとななしさんは証明し終わった勢いで消しゴムを落とした。
俺はチャンスだと思って彼女の消しゴムを拾い上げ、目の前に立つ。
彼女は俺の存在にやっと気付きはしたが、別段驚く様子も無く、すぐに消しゴムに視線を戻し、小さく頭を下げる。

「どうも」

素っ気ない声だった。
だが素っ気ないのとは裏腹に俺の予想よりはるかに高く、思わず目を見開いた。
けれども俺の目的を果たすために此処に来たということをすぐに思い出し彼女に視線を合わせる。

「何か俺に言うことねぇの?」
「何かって何」
「何で此処にいるか、とか」
「別に」

「興味ない」とまたすぐ視線を参考書に向けてしまう。
何て女だこいつ……っ!!
俺が此処に居る理由より参考書のテストに出るかもわからない証明の方が楽しいか普通!!
苛立ちが頂点に達し、ななしさんが使っている机を蹴った。
その衝撃で筆箱の中身がばらばらに床へと落ち、下敷きがカタンと音をたてて床へ落ちた。

さすがに俺のこの行為には無視するわけにもいかないらしく俺を静かに見つめる。

「俺は南沢篤志」
「……そう」
「噂聞いてない?雷門からの転校生」
「はぁ……」
「あんた噂のななしさんだろ?」
「まぁ……」

俺の質問をさも面倒だと言いたいのか気のない返事が返される。
何なんだこいつ……っ!!話しかけなければよかったと心の底で思う。
だがそれでは俺のプライドが許さず、そのまま話を続ける。

「模試も全国レベルなんだろ?」
「いや…そういうわけじゃ」
「俺雷門で成績トップだったんだけど」
「へぇ」

ななしさんは「何が言いたいの」と手のやり場に困ったのか拾い上げた下敷きを煽いで俺を見上げる。
その言葉を聞いて俺は口角が上がるのを感じた。
きっと俺は今、意地悪い顔をしている。


「勝負、しようぜ」
「勝負?」
「今度の期末テストでななしさんと俺、どっちの点数が高いか」
「……総合で、ってこと?」
「文系科目、理系科目、総合での三本勝負で」
「いいよ乗った」

ななしさんは俺の誘いに意図も簡単に乗った。
意外、だった。
やはり天才の考えていることはよく分からない。
しかも今までのくだりで何一つ表情を変えなかった。こいつはロボットか。
とんでもない奴に勝負を挑んでしまったのかもしれないと焦りを感じたがもうあとには引けない。

「もし俺が勝ったら」

今から言うのは、俺の、本当にただの気まぐれだ。ただの優越感だ。
そう何度も確認して俺はその言葉を口にする。

「俺と付き合えよ」

彼女は一瞬、ほんの一瞬だけ瞳が揺らいだ。
そしてほんの一瞬、俺と同じように意地悪そうな笑みを浮かべてこう告げた。


「いいよ負けるはずないから」






これが俺と彼女の出発点。






(国・社・英で294点、代数・幾何・理T・Uで382点)
(国・社・英で295点、代数・幾何・理T・Uで400点、私の勝ち)
(おかしいだろ!!理系教科満点かよっ)
(理系だから)
(おいおいまじか……)
(でも文系はあと一問でも間違ってたら危なかった。やるね)
(おっおぉ……)
(これからも相手になってあげてもいいよ)
(何で上からなんだよ……まぁ次回期待しとけよ、名無しちゃん)
(気持ち悪い)
(絶対お前に勝って彼女にしてやるからな!!)
(臨むところ)








数字から始まる天才との恋。南沢は文系。連載したいけどどうしようか迷ってる。

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